「お前、なにやってんだ」
「私も暇じゃないんですよ。でも、クビをかけて人事部長とコンプライアンス部長に直談判して、今回の一連の調査を認められました。伊東さんの横領事件裁判で、私の記録が証拠として認められるかは分かりません。そもそも、銀行として私の記録を裁判証拠として提出するのかも不明です。従業員を監視していたとマスコミに書かれたら当行の悪評にも繋がります。でもね。私はどうしても真相を明らかにしたかったんです。全ては私が個人で情報収集したことになっています。失敗したら自主的に退職する念書も差し入れました。でも良いんです。結果として悪い奴が誰かは判明したんですから。サラリーマン人生で、一生に一度の賭けでしたよ」
田嶋は伊東に頭を下げた。伊東がどんなに優秀だったとしても全てを完璧に隠し切ることは出来ないということだ。伊東に逃げ道はないはずだ。
「伊東さんが逮捕されなくとも、裁判でどうなろうとも、少なくとも当行からは追放されるはずです」
「てめえ」
「それに、マリン・リアルエステートの社長には当行のコンプライアンス部長が訪問しました。植北専務に事情を確認させ、既に本人は自供していますよ。キックバックは会社の正当な手続きに則ったものだと主張しているみたいですね。植北専務は罪に問われない可能性がありますが、伊東さんは別でしょうね」
伊東は目を血走らせ、田嶋を睨みつけている。