事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

帝國銀行、人事部119

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「11月23日11時23分通話スタート。植北さん。仕事中に電話してきたら困りますよ。例の件、総務部内の協議は終わりました。だいぶ早いクリスマスプレゼントです。」
 伊東の身体から立ち上る空気が変わったのが田嶋には分かった。
「11月26日16時13分通話スタート。任せて下さい。御社に必ず手に入るようにしますから」
「11月26日17時31分通話スタート。港北支店の件決まりましたよ、植北さん」

 伊東の動きが完全に止まっている。田嶋はたたみかけるように読み上げる。

「11月27日7時23分通話スタート。植北さん、どうなさいました。これから会議なんですよ。例の資金は明日の夜に頂きにあがります。年内には片付けたいですもんね。バー・オーセンティックで19時ですね。かなり早いお年玉を楽しみにしていますよ。よろしくお願いします」

 田嶋はやっと目を上げ、伊東の顔を見た。唇を紫になるぐらいに強く噛んだ伊東がそこにいた。

「まだまだお伝えしたいことは多々ありますが、一応解説します。監視カメラだけではなく、監視カメラのドーム内に録音装置もつけていました。私が総務部から特例をもらって設置したんですよ。内容は毎日私がチェックし、コンプライアンス部と人事部長に報告しました。苦労しましたよ。一応、音声が聞こえてから録音がスタートするようになっているのですが、関係の無いスタッフのおばちゃん達の会話も聞かないといけないんですよ。毎日2時間潰れました。でも、おかげさまで伊東さんの会話を受けて、植北氏から資金を受け取る現場も写真と動画に収めました。一部分は学生時代の友人に探偵の真似事をさせてしまいましたがバッチリでしたよ。山中部長にも見て頂きました。警察にも証拠として提出することになります」