事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

帝國銀行、人事部118

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 静かな会議室に伊東の笑い声が最初は小さく、徐々に大きく響いた。

「俺のスマホの画面が監視カメラに写っているだと。映像として撮られている可能性はあるだろう。それは否定しない。しかし、メールやLINEの文面が見えているとは思えない。証拠があるなら出せ」

 伊東は妙に自信たっぷりだ。更に語気を強める。

「私は本部勤務が長いが、総務系の業務に携わっていたこともある。監視カメラの性能についてはお前よりは知っているんだよ。証拠を出せ。どうせ出せないだろう」

 田嶋が黙っていると伊東は続けた。

「やはりな。天井に設置されている監視カメラの性能ではスマホの画面に何があるかを何となくは識別出来るが、文字までは読み取れないんだよ。監視カメラの性能は200万画素が限界だろう。それ以上の性能になると保存するデータ量が多くなって実用に耐えない。それにな、俺はメールで証拠を残すほどバカじゃない」

 自然と笑みを漏らしながら伊東は得意気に田嶋に解説した。田嶋は伊東から目をそらし、下を向く。やはり、カマをかけても引っかからないのが伊東だ。

「さっきから言っている通り、時間の無駄だったな。首を洗って待っていろよ。田嶋ちゃん」

 伊東は最後には猫なで声を出した。田嶋は生理的に嫌悪感しか覚えなかった。吐き気を催した田嶋は最後の切り札を出すべき時だと理解した。下を向いたまま田嶋は話し出す。