「伊東さん。どうしても正直にはお話下さらないのですね」やっと言葉を紡いだ。自分ながら心が弱い人間だということが実感される。
「クソが。お前と話をする時間がもったいない。俺は何一つ責められる要素はない」伊東は興奮し、唇の左端からよだれが垂れてきている。
勇気を出すならば今なのだ。大学受験の発表を見に行った時よりも緊張している自分がいる。場違いな記憶を思い出す。
「ならば申し上げます。伊東さんの不正の証拠は完全に掴んでいます。銀行の監視カメラの性能がどの程度かご存じですか」
「あん?」
「私達は疑いが発生した2ヵ月ほど前から準備を進めてきました。1ヵ月前には伊東さんが良くスマホを操作している非常階段スペースにある監視カメラを最新のものに入れ替えています」
ここで田嶋は一拍置いた。神経がすり減りそうだった。
「監視カメラの性能がどの程度かご存知ですか」
伊東からは反応がない。能面のような青白い顔色だ。
「あのカメラは、質屋やチケット屋でも使われている従業員監視用カメラです。防犯用ではありません」
少し伊東の顔に陰が差した。どす黒くなったと表現すれば良いだろうか。
「カメラには伊東さんのスマホの画面がしっかりと映っていました。懇意にされている不動産会社のマリン・リアルエステートの植北専務に当てたショートメッセージだけでなくLINEの文面もです」