伊東の濃いグレーのジャケットの胸元が細かく震えている。興奮しているのだろう。そして、田嶋が手を置く机から急激な振動を感じた。一瞬、地震が起きたのかと思ったが、伊東の上半身が揺れているところを見ると、伊東は貧乏ゆすりをしているらしかった。貧乏ゆすりを部下がやっていたならば、伊東は社会人として礼儀がなっていないと叱責しただろう。その伊東が今や貧乏ゆるりで身体を揺らしているのだ。どこか夢の中にいるような、現実感が乏しい空間で田嶋は伊東を見るしかなかった。
「田嶋。お前は誰のおかげで今のポジションにいると思ってんだ。あ? 俺のおかげだろうが。もうお前に本店での席はない。銀行を辞めろ。今だったら退職金は満額払ってやる。居続けるなら、退職するまで追い込んでやる。お前に居場所が無くなるまでな」
伊東の血走った視線を浴びながら、田嶋は冷静になろうとした。
『怖い』
大人の男が本気で怒っているのだ。いつ殴られるかもわからない。しかし、田嶋は話さなければならない。