田嶋が黙っていると伊東の肩ががくがくと動き出した。最初は泣き声のようにも聞こえるほど小さかった笑い声が徐々に大きなものに変わっていく。それと共に伊東の身体が大きくなったように感じる。伊東が当初のショックから立ち直り、自信を取り戻しつつあるようだ。
「君ね。それじゃ何の証拠もないじゃないか。それなのに僕を告発したのか。バカにしてんのか。君には目をかけてきたつもりだ。何の恨みがあるんだ。部長にでも取り入るつもりか。旧Yを売って、君が出世するためか」
伊東が矢継ぎ早に罵声を浴びせてきた。ここまで感情を表に出した伊東を田嶋は初めて見た。伊東は田嶋に次々と罵詈雑言を浴びせていたが、田嶋の耳には届かなかった。やはり駄目なのか。
徐々に伊東の口数が少なくなり、突如沈黙が訪れた。伊東が席を立つ。
「バカらしい。こんな茶番に付き合って損した。覚えていろよ。処分は追って下されるだろうから」伊東は部屋を出ていこうとした。
「待って下さい。話は終わっていません」
伊東は振り向くこともなくドアノブに手をかける。
「待てと言っています」
大声で田嶋は止めた。伊東が振り向いたが、表情に驚きとわずかな恐怖が貼り付いている。
「座って下さい。これからが本番です。いいから座れ!」