事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

帝國銀行、人事部111

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 ここでとんかつが運ばれてきた。

 とんかつの断面は黄色い衣となっている。きれいな色だ。衣をつけるとき溶き卵を二度付けしているから、このような色になるそうだ。このおかげで肉が柔らかくなり、ほんのりと卵の甘みも加わる。丸八とんかつ店の特別なとんかつだ。

 ソースをかけたとんかつを口に運びながら、田嶋は考える。

『なぜ伊東さんは、店舗売却にそこまで関与するのだろうか。伊東さんの仕事のやり方だと、自らは出ていかず部下にやらすことが多い。なぜ自ら動いているのだろうか』

 その時に梶が言った。

「うちの店舗の売却額だけど、入札するから世の中の市場実勢で売ると思うだろう? だけど、実際はかなりの安値売却になるだろうな。俺には良く分からないけど、入札側で談合するんじゃないかって噂まで流れているよ。いずれもOBがいる会社だし、何か怪しいんだよな。うちの想定売却価格の情報を社内外の様々な人が聞きに来ている。そもそも、これ以下の金額だったら売却しないと決めている最低売却価格も、どこの横やりか分からないけど、かなり低い水準で決まったようだ。お偉いさんが全部決めているから我々には伝わってこないけどな。でも、うちの総務部でも誰かお金をもらっているかもしれないな。このままだと不動産業者が一方的に利益を上げられる案件になりそうだよ。帝國銀行の株主様には言えないな」そう言って梶は笑った。

 『談合? お金をもらっている?』田嶋の頭の中に引っかかる何かがそこにあった。

 キャベツの千切りを口に入れながら、梶と浅川の声が遠くに聞こえた。

 まさかとは思うが、調べてみる必要があるようだ。