事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

帝國銀行、人事部109

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 19時25分に田嶋は大井町駅に到着した。歩いてすぐなので間に合う時間だ。

 少し前の方に見たことのある後ろ姿があり、浅川がいそいそと店に向かっていた。同じ電話に乗っていたようだ。少し早足で浅川を追いかけるが、浅川も急いで歩いている。結局、お店の前で追いついた。

「おーっす」

「おお、田嶋。同じ電車だったのか」白い歯を出しながら浅川が笑う。日に焼けた顔に人のよさそうな笑みがこぼれる。

「島田、梶、村尾は連絡あったか?」と田嶋がスマホを確認しながら聞く。

「いや、ないな。ちょっと待つか」浅川はスマホを触りながら、お店の前の列に並んだ。残りの3名にメッセージを送ったようだ。

 その時、後ろから声がした。

「悪い。お待たせ」

 梶が悠々と歩いて来た。童顔で、髪を真ん中に分け、シルバーフレームの眼鏡を掛けている。通勤時はリュックを背負っている。かなりやせていて、スーツはいつも大きめに見える。梶は、新入行員時代とあまり見た目は変わらなかった。はっきり言って標準的すぎて目立たないサラリーマンだ。仕事も総務部だ。他の部署からは、何をやっているか分からない。

 どうやら今日はこの3名で丸八とんかつ店に入ることになるらしかった。