事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

帝國銀行、人事部103

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 田嶋が伊東に対して、改めて疑問持ったのは、伊勢原市の愛甲石田支店の営業最終日に立ち会った時だ。愛甲石田支店は、元々近くに母店があることもあり、他の店舗よりも早めに店舗閉鎖を決定し顧客に案内していた。売却の入札も早々に終わっており、購入者は決まっていた。

 総務部と経営企画部の担当、推進本部の担当、そして人事部から伊東、田嶋が立ち会い、愛甲石田支店の最終日を迎えた。店のシャッターを閉めたのは16時だった。

 シャッターが閉まった段階では外にお客様はいなかったが、支店の担当者たちは外に向けてお辞儀をしながら、シャッターを閉めた。シャッターが閉まった後に、泣き出す女性行員もいて、田嶋は店舗を閉めるということの難しさ、わびしさ、そして責任を実感する思いだった。

 閉店セレモニーには、入札でこの店舗を買い受けることになっていたマリン・リアルエステートの役員が同席することになっていた。それが、同社の専務の植北だった。
閉店セレモニーは16時半から開始された。

 まず、支店長が支店の歴史を述べ、今まで業務運営を頑張ってくれた行員に礼を述べた。次に、指名を受けたのが植北だ。購入者としての挨拶だった。

「皆様、このような場でご挨拶をさせて頂く無礼をお許しください。マリン・リアルエステートの植北でございます。御行には日ごろより大変お世話になっております。」そのように植北は切り出した。