ただ、田嶋の下には違う情報が入ってきてもいた。各店舗からは、人事部が来ているはずなの支店長や所属員との面談を行わなかったという噂話が入るようになった。徐々に神奈川県の旧Y店舗では、何のために人事部が同行しているのか分からないと言われるようになったようだった。人事部への不満を表立って言わないのが銀行員の常だが、このように人事部を批判するような意見が噂として届いてくるということは、よほど不満がたまっているのだろう。神奈川担当の田嶋としては、今やカリスマ性を帯びてきた伊東に意見する訳にもいかず、ただ時間だけが過ぎていた。
この間、伊東のスケジュールにはMRと書かれた打ち合わせが増えていた。人事部は秘密主義であり関係者しか内容を知らされない打ち合わせは四六時中開催されている。従業員の異動、昇格、降格、不正、不倫等、オープンにできない話題には事欠かない。そのためMRと書かれた伊東のスケジュールについて、田嶋は気にも留めていなかった。