事実はケイザイ小説よりも奇なり

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帝國銀行、人事部100

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 この指針を見れば分かるように、銀行は積極的に外部へ店舗の空きスペースを賃貸できない。修繕も必要最低限としなければならず、その店舗で行われている銀行業務に比して過大ではない賃貸の規模とされてる。これでは、店舗を閉鎖した後に、空きスペースを大々的に改装し、きちんと賃貸収入を得られるようにするのは難しい。

 そのため帝國銀行では今回の閉鎖店舗については、売却する方針としたのだ。親密な取引先に売却し、収益を上げてもらう一方で、不動産取得資金は帝國銀行から借りてもらう。それによって、双方がWin-Winになろうというコンセプトだ。

 閉鎖店舗の内覧については、総務部が各不動産業者を案内することになった。人事部からは伊東が参加する。まだ営業している店舗であり、従業員に動揺が走るかもしれないので、出来るだけ人事部が同行すべきだという伊東の意見が採り上げられたためだ。

 閉鎖予定の店舗数は全国で100店舗あるが、その6割が旧Yの地盤である神奈川県の店舗だった。

 伊東は地方の店舗については、人事部の担当者に任せることもあったが、旧Yの神奈川店舗については必ず同行していた。人事部内では、一見すると冷たい印象の伊東が毎日何件もの店舗内覧のために同行しているのを見て、本当は『面倒見の良い、思いやりのある人物』であると伊東が認識されるようになった。急に男ぶりが上がったのだ。

『非常時だからこそ、本当の人間性が出る』と伊東を慕う若手まで出てきた。