銀行の営業には様々な厳しさがある。特に個人業務に携わると「数字が人格」と言われかねない。今は支店長や管理職も若干おとなしくなったが、 少し前まではパワハラが横行していた。目標という名のノルマを達成していなければ、人間として扱われないような職場なのだ。当然ながら、いつも決まった時間に帰宅することは出来ない。子供がいる女性にとっては営業になることは銀行を辞めろと言われているのに等しかった。
それでも、2,000名の異動で事務センターに行く1,000名以外のメンバーは、ほとんどが旧帝國銀行側の支店に配属された。
現金の集配金業務を担うようになったり、個人の財務相談として渉外担当となったり、窓口の担当となった者もいる。人事異動が発令された直後は、かなりの数の訴えが、外部の弁護士事務所につながるコンプライアンス・ヘルプラインへなされた。
ほとんどの訴えは「異動で違う職種・業務に配属するのは問題があるのではないか」「早く帰ることが出来なくなり体調を崩した」「保育園に迎えに行けない等の育児に問題が生じている」「慣れない仕事で精神的な不調におちいった」「営業の上司が目標・数字ばかりを求めパワハラだ」といったものだった。
コンプライアンス・ヘルプラインがパンクしかけ、弁護士事務所からは追加の手数料請求がなされた。驚くほどの金額だった。
ヘルプラインに集まった相談・意見は、匿名の形で帝國銀行の人事部や法務部、経営企画部にも共有されたが『基本的には対応する必要のあるものはない』という結論に至った。一部の支店長に、もう少し優しく対応するように人事部から指導しただけだ。
銀行は人こそ財産であり『人財』という。しかし、実態は一般職である事務職は使い捨てだ。
田嶋の信念である『銀行は人が全て』が揺らぎそうだった。