この再発防止策は不正防止のためのものだったが、実際には別の目的も入っていた。田嶋もまさかとは思ったのだが、経営陣の一部はこの事件を上手く使うことを考え付いた。すなわち、お客様に対する集金業務の廃止だ。集金業務は現場の負荷が大きい。集金は、預かり金額を数えるのに相応の時間がかかり、預かり金額を数え間違えれば即問題となるのは当然であり、預かった現金の重量は相当なものになり運搬の負担がある。しかも、渉外担当者が現金・盗難・紛失・事故にあった時のために保険をかけているが、個人業務が儲からない現状では保険料負担すら重い状況になっていた。そのため、これをきっかけとして集金業務の廃止を狙ったのだ。表向きはあくまでお客様のため、横領事件の再発防止のためだ。こんなことを考え付くのが銀行であり、銀行内の官僚なのだ。そこに顧客は不在なのではないか、田嶋はそう感じた。