その矢先、横山が逮捕されたとのニュースが飛び込んできた。横山は潜伏先の香港で現地警察に発見された。マスコミは報じたが、規模は小さかった。結局、横山が横領した理由は、為替の先物取引での損失補填だった。横山は支店ではエースと呼ばれていたが、あくまで個人業務の担当だ。大学は地方の私立大学出身で、銀行のエリートコースではない。銀行人生の大半を支店勤務で終わることが目に見えていた。
だからこそ横山はせめて金だけは儲けようと金融知識を活かして資産運用にかけたのだ。最初は上手くいっていたようだが、取引規模を大幅に増やしていたのが良くなかった。米国の金融政策変更を受けて一気に損失が膨らんだ。証券会社から追加の資金差し入れを求められ、資金繰りに窮し、顧客のお金に手を付けたのだった。
銀行員は金融のプロのように世間一般では考えられているが、全員が金融のプロな訳ではない。横山もエースと呼ばれていたが、あくまで「金融商品販売のプロ」でしかなかった。運用のプロではなかったのだ。