事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

帝國銀行、人事部83

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「そこでも横山の優秀さが現れている訳ですね」

「そうです。お客様は当初は横山のことを完全に信じ切っていまして、何かの間違いではないか、横山さんがそんなことをするはずがないと言っていました。最初は私と上司が訪問した際に、我々を詐欺師だとお考えだったぐらいですから」

「一人暮らしの高齢者は寂しい思いをされていることもありますから、優しくしてくれる銀行員に騙されるという実例のようなものですね」

「まさに横領の見本のような事案です。現在、横山が担当している全てのお客様に連絡を取ろうとしているところです。支店のメンバーは支店長、副支店長、課長の一部しか本件を知りません」

「横山はどうしているのでしょうか」

「本日朝から行方不明です。朝一番に店で待ち構えていたのですが、出勤しませんでした。お客様にご連絡したところ、銀行に問い合わせをしてしまったが、横山に迷惑がかかるかもしれないと思い、昨日の夜、携帯電話に連絡してしまったとのことでした」

「それで横山は気付いたんですね。横山の自宅には訪問したのですか」

「直属の課長が横山の寮に行きました。寮長に鍵を開けてもらい中に入りましたが、もぬけの殻です。おそらく逃亡したものと思います」

「警察への通報は?」

「既に一報を入れてあります。これから警察も含めて捜査、調査が進んでいくことになります」