事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

帝國銀行、人事部82

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「手口は?」

「人事部ならご存知でしょう。他行から現金でお客様に引き出してもらい、その現金を定期預金や投資信託・保険でお預かりしたことにしていました。証書の偽造ですよ。被害者は74歳の女性個人客。旦那様はすでに他界されていて一人暮らしです」

「確かに当行でも他行でも見かけるパターンですね。しかし、当行も過去の横領事案で再発防止策をまとめていたはずですよね」

「おっしゃる通り、再発防止策を講じていました。お客様からお預かりした資金は支店で事務担当が預かり、証書は事務担当から郵送でお客様にお届けしています。営業の渉外担当を経由しない事務フローとしています。しかし、今回は現金自体を事務担当に引き渡していないので、横山が資金を預かったかどうかすら分かっていませんでした」

「現金の預かりだけなら確かに分かりませんよね。しかし、お預かり資産の状況をお客様にお伝えする残高証明書は支店から定期的に発行しているはずですから、残高証明書が届かなければお客様もおかしいと気付いたのではないでしょうか」

「横山が残高証明書を偽造していました。お客様に確認しましたが、当行の正式書類と見分けがつかないぐらい精巧な残高証明書をお持ちでした。おそらくパソコンで当行の書式を偽造し、交付していたのでしょう。当行の事務フローを完全に理解した上で、犯行に及んだものと思います」