田嶋は旧Yの神奈川県の店舗を現在は担当している。そして、伊東に命じられてリストラ候補者のピックアップを進めてきた。
リストラ候補を選定する際には、当たり前だが、人事部に収集された全ての行員のデータおよび評価を確認することがスタートだ。行員といっても正社員ばかりではなく、契約社員や嘱託、派遣社員も存在する。
帝國銀行内で旧Yと呼ばれる横浜みなと銀行は、地銀ながら規模は大きかった。旧Yの店舗は、神奈川県内だけで177店舗、店舗外ATM370か所を数える。旧帝國銀行の神奈川県内店舗があまり多くなかったこともあり、旧Y店舗はほとんどそのまま残ってきていた。
但し、多くの店舗にあった法人担当課は、全てが旧帝國銀行の店舗に集約された。そのため、旧Y店舗は個人向けの機能しか保持していない。
銀行の個人向け業務は利益率が低い。窓口に人を割かなければならないが、1件数百円の手数料をもらうのが限界の振込や、単なる問い合わせ等が多く、窓口は基本的に儲からない。渉外担当は、投資信託や保険の販売とアパートローンの貸付である程度の収益を獲得してきたが、金融庁が投資信託の回転売買や保険契約の販売方法を問題視していることから、銀行としては積極的な販売が難しくなった。そして、アパートローンも、シェアハウス業者の破綻問題等により、個人への不動産融資について金融庁が強い関心を持ったことから、実行しづらい状況にあった。したがって、個人分野だけで勝負するしかない銀行店舗はどの店も赤字か低収益だった。
昔は、預金を集めることが銀行の収益につながった。借り手は有り余るほど存在したので、預金を集めてくれば貸出を通じて収益が確保できた。しかし、今は、きちんとお金が返ってくるような取引先はむしろお金を借りなくなった。借入需要がある取引先は信用力に不安がある一方で、貸出金利は低利に抑えられていることから、貸出で利益を確保するのは難しい環境にある。
また、そもそもインターネットでの銀行取引が拡大しており、来店者数はこの10年で約半分まで低下していた。
預金を集める重要な拠点であった銀行の店舗は不要になってきたのだ。これからの銀行店舗はより軽量化していかざるを得ない。そのためのリストラだった。