事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

帝國銀行、人事部75

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 田嶋はもう一度、ページを戻って労働時間の定義を見るように参加者に促す。

「三菱重工長崎造船書事件では、労働時間とは、従業員が会社の指揮命令下に置かれている時間をいうとされています。労働基準法上の労働時間に該当するか否かは、従業員の行為が会社の指揮命令下に置かれたものと評価できるか否かによって客観的に決定されるというのが判例の立場です。ところで、今まで見てきた通達、判例は時代に即しているでしょうか」

 そう言って田嶋は目の前に座る比嘉に発言を求めた。比嘉の両親はその名の通り沖縄出身だ。比嘉は完全に沖縄県民の顔つきをしている。何と言えば良いのか、目がぱっちりとしていて、男性ながら可愛らしい顔つきをしている。しかし、比嘉自身は沖縄に住んだことは無かった。完全な『東京っ子』なのだ。そのギャップが先輩や後輩からなぜか人気だった。人によって何が人気の元となるかは分からないものだ。

「確かに、出張中の新幹線の中では、スマホでゲームをしても小説を読んでも良いですし、You TubeやInstagramを見ても誰からも文句は言われません」比嘉はしゃべると完ぺきな標準語を使うのだが、顔つきからなぜか少し方言が混じっているように感じる。不思議なキャラだ。

「確かに比嘉さんのおっしゃる通りです。しかし、iPhoneが発売されたのは2007年(平成19年)です。スマートフォンの歴史はまだ10年ちょっとなのです。少なくとも上記の通達・判例はスマートフォンが登場する前に出されたものです。ここまで良いですね」参加者が頷く。伊東は興味なさそうにスマホをいじっていた。