事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

帝國銀行、人事部72

f:id:naoto0211:20201229182932j:plain

 銀行の人事部担当は、法制度、判例の動向をかなり細かくチェックしている。油断すると法令違反に問われかねず、ブラック企業の烙印を押されることもあり得る。

 この日は、人事部に異動してきて日が浅い担当者を集めての勉強会が開催されることになっていた。講師役の田嶋は、いつもより早い時間に通勤していた。

 11月上旬とは思えない昨日までの暑さは息をひそめ、最高気温は前日比マイナス8℃と急激に冷え込んだ。最近は異常気象が増えてきているような気がする。台風のコースも、強さも昔とは異なる。雨も熱帯地域のスコールのように降るようになった。田嶋はこんなことを考えながら、東京駅から日比谷までを歩く。但し、異常気象については、本当は何とも言えないのかもしれない。報道を見ると大きな台風が被害をもたらし、降水量も極端に増え、平均気温は地球温暖化のため上昇していると思いがちだが、裏付けのないイメージだけであることも多々ある。今日は家に帰ったら、本当に気候に異常を来しているのかを調べようと心に決めた。

 人事部のデスクに座りパソコンを立ち上げる。サーバーを選択し、自身のファルダの直下にある勉強会フォルダから今日の資料を立ち上げる。

 パワーポイントの最初のページには『出張中の移動時間と残業時間』とタイトルが記載されている。

 この半年で人事部の担当もかなり入れ替わっている。出張中の移動時間が労働時間に該当するのか否かについてしっかりと学んでおく意義はあるだろう。

 出張中の移動時間と残業の関係については、現場の若手銀行員が素朴に疑問に思うポイントの一つだ。このトピックスの考え方は、労働時間と残業時間の関係を考える様々な事例を考えるのに応用できる。押さえておくべきポイントの一つだ。田嶋は手早く資料の印刷を始めた。

 パワーポイントの資料はA4紙表面に2ページ分、裏面に2ページ分を印刷するように設定する。もちろん白黒の設定だ。最近の印刷代削減策の一つだが、これではパワーポイントで資料を作成する意味はほとんどないのではないか。そんなことを考えながら、資料を10部印刷していた。