事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

帝国銀行、人事部58

f:id:naoto0211:20200921141425j:plain

 田嶋のみならず、他の人事部メンバーも息をのんでいた。とうとうここまで来たのだ。田嶋の世代は銀行が倒産する時代を知っている。不良債権処理で厳しい環境を過ごしてきた。しかし、若い世代は銀行が潰れるとは思っていないだろう。何と言っても就職人気ランキングの上位を維持してきた業種なのだ。

 田嶋は聞きながら背筋が寒くなっていた。銀行にとって一般職の廃止は鬼門だ。今までも何度か「一般職の高度化」や「一般職の総合職化」が叫ばれ、人事制度を変えたり、給与制度を変えたりと様々な手を打ってきた。しかし、既存の中高年層からの反発と、金融庁の指導により大幅に増加したコンプライアンスに関する事務量の前に効果を上げられたとは言えない。

 銀行における一般職と総合職を理解するには、まず総合職を理解し、その対比として一般職を考えてみると分かりやすい。

 総合職とは「企業において総合的な業務に取り組む職」と定義される。これだけだと何のことを指しているのか分かりづらいが、「複数の業務を経験し、将来的には会社の中枢を担う幹部候補生」と言える。そして、総合職の特徴として配置転換と転居を伴う異動がある。入行後は、本人の希望や適性、何よりも銀行側の事情に応じて配属が決まる。窓口業務、事務担当者のような営業店への配属から、本部の企画や人事、サービス毎の専門部まで幅広い部署に配属になる可能性があるのだ。もちろん、最初の配属先が個人の営業部門、すなわちリテール部門だったとしても、数年後に花形部署である本部や法人部門へ異動する可能性もある。とにかく、様々な業務に就く可能性があるのが総合職だ。別の言い方をすれば、何をするかが決まっていないのも総合職なのだ。

 一方で、一般職とは、「企業において定型的な一般業務に取り組む職」のことだ。基本的に転居を伴う異動がないことが特徴の一つとなる。一般職はその職種の生まれた経緯から「総合職をサポートする仕事を行う縁の下の力持ち」と言うのが正しい。業務内容はある程度限定されており、基本的にはマニュアルに則って行う定型業務だ。