事実はケイザイ小説よりも奇なり

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帝國銀行、人事部57

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 ここまで一気に山中は説明した。原稿は見ていない。本気だ。会議室の雰囲気が急激に変わる。山中の声以外に一切音がしない。山中の発言が止まった瞬間に耳が痛くなるほどの沈黙が会議室を包んだ。

「分かるか。私は本気だ。そして頭取含め役員は本気になった。我々は銀行を変えるんだ」山中が執行役員人事部長として檄を飛ばす。

「では、まず皆へ大事な方針を伝える。当行は一般職を総合職と統合し、職種を一本化する。支店では顧客への提案営業やコンサルティング業務が増え、一般職も働きが総合職に近づいている。来年4月をめどに従業員組合へ申し入れ、労使協議を経て来年10月には職種一本化への移行をめざす。職種の垣根をなくすんだ。やる気がある行員には幅広く活躍できる環境を提供する。逆にやる気の無い行員にはツライ目にあってもらう。変われなければ当行を去ってもらう人も出てくるだろう。それでもこの改革はやり切る。当行が生き残るためだ」

 山中の声だけが会議室に響く。

「現行制度の2種類の総合職はそのまま。今回の人事制度改定は、いわゆる一般職であるビジネスキャリア職の1万1千人が対象だ。3万人の当行国内従業員のうち、3分の1に影響がある。反発は十分に予想される。もちろん、新制度では現在の業務を続ける人も出てくる。しかし、一般職の業務はどんどんと無くなっていく。当行は定型的な業務を自動化するソフトウエアであるボティック・プロセス・オートメーション、すなわちRPAを使い、グループ全体で来年3月までに1,500人分の業務量を削減する計画を発表している。当行の支店における来店客は10年間で約3割減った。職種のあり方を見直して付加価値の高い仕事に取り組んでもらわなければ当行のリテール部門は成り立たない。もちろん、RPAはどんどん導入していく。数年後には少なくとも4,000名分の業務量を削減する。そして、新入行員の採用を抑制し、自然減で4,000名の人員削減も見込む。店舗は400店舗を300店舗に削減する」