事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

帝國銀行、人事部46

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「田嶋君。岩井支店長の件はどうなっているの」そう尋ねた山内の目は真剣だった。

「このままだと、中野坂上支店は崩壊しちゃうよ。スタッフさんたちは次々と辞めたいって言うし、真島さんは今日も病欠。もしかしたら、病院で鬱になったと診断書を書いてもらっているんじゃないかって皆が心配しているよ。ここ数日は話の内容がおかしかったもん」

 田嶋は突然の話題転換に驚きながらも、冷静を装って口を開く

「岩井さんの件は任せておいてくれ。必ず、中野坂上支店を働くことが出来るお店に戻すから」

「そうなの?」

「ああ。今、人事部として対応している。銀行は人が全てだ。信じてくれて良い」

「分かった。それで、ちょっとLINEの登録ができるQRコードを開いてくれない?」

「え? 何で」

「いいから」そう言いながら、山内は田嶋の手をつかんで田嶋のスマホを取り上げた。田嶋は急に山内に手を握られたようになり固まってしまった。山内は何も気にした様子もなく、田嶋のスマホに表示されたQRコードを使い、田嶋のLINEを登録した。

「後でメッセージを送るね」そう言って山内は帰って行った。

 田嶋は不可解な思いを抱えて帰路についた。岩井の件でもっと山内から問い詰められると考えていたからだ。山内の反応はあっさりとしたものだった。

 自宅近くの駅の階段を下りている時に、山内からのメッセージが届いた。

『初メッセージだね。これからも同期としてヨロシクね』という文面と、うさぎなのかネコなのか分からないようなスタンプが送られていた。後で調べたら『うさまる』というキャラクターだったらしい。そして、田嶋がメッセージを確認した直後に山内はLINEで写真を送ってきた。

 最初は、全体的に暗くてよく分からない写真だった。目が慣れてくるにつけ、田嶋はこれが重要な写真であることが分かった。

「これって」独り言が思わず漏れた。