事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

帝國銀行、人事部41

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「アンケートでは、貴店でパワハラがあると回答した割合が95%です。そして自由記入欄には、次のような回答がなされていました」

・当店にはパワハラがある。人事部は行員を守れ。
・岩井支店長のパワハラを止めて欲しい。渉外課の若手女子が壊れてしまう。
・支店長の指導が長すぎて、外訪に回れない渉外担当がいる。
・岩井さんが真島さんに長時間の叱責をしているが、自分が怒られているようで気持ちが沈む。せめて皆が聞こえないところでやって欲しい。
・岩井支店長の真島さんへの指導が長すぎる。立たせたまま2時間に及んだこともあった。
・支店長が自分にパワハラしている訳ではないが、支店長のパワハラを毎日見聞きし自身のメンタルが不調になっている。

このような意見を読み上げている最中、岩井の表情は変わらなかった。反応が読めないのは田嶋としてもやりづらい。どのように次の発言をしようか迷いだした頃、岩井が口を開いた。岩井の唇はグロスで輝いている。やはり若く見える。
「なるほどね。一応、人事部さんにはお伝えしておくけど、法律に抵触するようなことは言ってないからね。人格否定や脅迫、いじめはもちろんしていないし、プライベートについても一切触れていないわ。それはご認識している?」

髪をかき分けながら、面倒に話をする岩井は田嶋の抱いていた印象とは異なる。頭取や他の役員の前では、精力的で男勝り、かつ年次が下の行員にも礼儀正しかった。今、目の前にいる岩井は、そのままタバコでも吸い出しそうな、雰囲気を漂わせている。