事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

帝國銀行、人事部37

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「この中野坂上支店のような小さな店で、パワハラが起きているの。このままだと誰も問題にしないから心配になって連絡したの。具体的には岩井支店長の件なの」

「岩井支店長が真島さんへの指導が厳しいという話?」

「さすがに良く知っているね。あ、さっき内田さんと話をしていたんだっけ」

「そう。内田さんからは支店長が厳しく指導しているけど、仕事の話に留まると聞いているよ」

「そうなの。岩井支店長は支店メンバーの前で真島さんを長時間立たせて、指導しているわ。そして、内田さんの言う通り、話をしている内容は業務のことだけ。真島さんは優秀で営業は出来るんだけど、内部事務に弱いところがあるから」

「それだけだったら、パワハラとしての認定は難しいかもしれないね。詳しい話を聞いた訳じゃないけど」

「岩井支店長は頭が良いから、皆の前で問題は起こさないわ。でも、この話には裏があるのよ」

「どんな?」

「きちんと人事部として対処してくれる? そして、私がこの問題を話したことは秘密にして」

「分かった。人事部は口が固くないと出来ない。同期として約束するよ。悪いようにはしない」

 山内は天井を見上げ、しばらく動かなかった。どのように話をすべきか、考えを整理しているようだった。

「あのね、嘘だと思うかもしれないけど聞いて。岩井支店長は、女性として真島さんを許せないの。つまり恋敵として」

「ん? どういう意味」

「これはパワハラというだけの話ではないのよ。支店で気づいているのは私だけだと思う。岩井支店長のことを私は尊敬していたんだけど、今は生理的にも無理」

「それだけだと良く分からないよ」

「面倒な話なんだけど、真島さんの彼氏は同じ支店の稲垣さんなの。で、岩井支店長は以前稲垣さんと大人の関係だったの」