「この中野坂上支店のような小さな店で、パワハラが起きているの。このままだと誰も問題にしないから心配になって連絡したの。具体的には岩井支店長の件なの」
「岩井支店長が真島さんへの指導が厳しいという話?」
「さすがに良く知っているね。あ、さっき内田さんと話をしていたんだっけ」
「そう。内田さんからは支店長が厳しく指導しているけど、仕事の話に留まると聞いているよ」
「そうなの。岩井支店長は支店メンバーの前で真島さんを長時間立たせて、指導しているわ。そして、内田さんの言う通り、話をしている内容は業務のことだけ。真島さんは優秀で営業は出来るんだけど、内部事務に弱いところがあるから」
「それだけだったら、パワハラとしての認定は難しいかもしれないね。詳しい話を聞いた訳じゃないけど」
「岩井支店長は頭が良いから、皆の前で問題は起こさないわ。でも、この話には裏があるのよ」
「どんな?」
「きちんと人事部として対処してくれる? そして、私がこの問題を話したことは秘密にして」
「分かった。人事部は口が固くないと出来ない。同期として約束するよ。悪いようにはしない」
山内は天井を見上げ、しばらく動かなかった。どのように話をすべきか、考えを整理しているようだった。
「あのね、嘘だと思うかもしれないけど聞いて。岩井支店長は、女性として真島さんを許せないの。つまり恋敵として」
「ん? どういう意味」
「これはパワハラというだけの話ではないのよ。支店で気づいているのは私だけだと思う。岩井支店長のことを私は尊敬していたんだけど、今は生理的にも無理」
「それだけだと良く分からないよ」
「面倒な話なんだけど、真島さんの彼氏は同じ支店の稲垣さんなの。で、岩井支店長は以前稲垣さんと大人の関係だったの」