事実はケイザイ小説よりも奇なり

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帝国銀行、人事部32

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「当店の人員数は適正だと思います。問題なのは、時短勤務者の権利意識の強さと、独身女性側の反発だろうと思います。時短勤務者は子供がいるんだから、そして権利なんだから仕事が出来ないのは当たり前と考えています。一方で、独身女性や子供がいない女性は、甘えるなと思ってしまうのです。また、会社側が営業事務を減らして、窓口や渉外に人員をシフトしているのもあるかもしれません。やはり営業の方が事務よりはキツイですから。もちろん、営業に移るのは時短勤務者ではありません。独身女性等です。このようなことがあり、店内が分裂してしまい、お互いに協力しなくなります。このお店で起きている問題は、この辺りにあるような気がします」冷静な分析だった。田嶋でさえも、様々なお店を回る中で何となく見えてきている問題であるのに、内田は既に見抜いているらしい。

「人事部としてお力になれることはありますか」田嶋は思わず聞いてしまった。本来は、人事部が何らかの約束しないように持っていくのが鉄則なのに、である。内田の人間としての迫力に押されたのかもしれない。

「いえ。現時点では必要ありません。店内で解決すべきことです」内田は言い切った。 

すばらしい。田嶋は心の中で、内田の名前を書き留めた。次の管理職登用の際には、候補として挙げようと心に誓う。

「田嶋さん、それでも将来的なことについてはお願いしておきたいことがあります」

「何でしょうか」

「今まで、昇進という観点では時短者は評価が低いままに留まってきました。しかし、共働き世帯が当たり前になり、銀行ではほとんどの行員が事務から営業にシフトする流れが強まってきています。これからは、今まで以上に労働時間ではなく成果によって人を評価していく制度にしていって欲しいと思います」内田は真剣な眼差しで田嶋を一瞬見据えた後に、深々と頭を下げた。田嶋は改めて感銘を受けた。内田にはもっと大きな店で活躍して欲しいと思う。次の異動候補者にリストアップすることも心のノートに書き留めた。

「分かりました。努力します」田嶋は力強く答えた。自分にそこまでの権限はないが、それでも少しでも影響を及ぼすことはできるだろう。

「他に、中野坂上支店で問題はありませんか。例えば、セクハラとかパワハラとか」田嶋は改めて聞いた。内田ならば客観的に答えるだろう。

 一分ほど内田は考え込んだ。その上で口を開いた。