事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

帝国銀行、人事部30

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「いろいろとご迷惑をお掛けしています。しかし、全行的な動きですので、どうかご理解下さい」田嶋は頭を下げた。

「分かっているよ。何とか営業事務のメンバーも戦力化するから」中村は安心したようだ。自分が副支店長時代に何らかの問題が起きたら、責任を追及されるかもしれないからだ。

「ちなみに支店長はご不在ですか」田嶋は軽い感じで聞いた。実際には支店長の岩井は本部会議で不在であることを確認した上で訪問しているにもかかわらずだ。

「ああ。今日は本部でミーティングしているよ。お店には戻らず、そのまま本部連中と飲みに行くと思う」中村が警戒心ゼロの雰囲気を出しながら答えた。

「ご挨拶出来たら良かったんですが、それはまたの機会にします。可能であれば、窓口のメンバーと渉外のメンバーから少しお話を聞きたいのですが」

「それなら、窓口のテラーは内田さん、渉外は山内さんが良いと思う。どちらもベテランでスタッフさん達からの信認も厚いから」

「分かりました」やはり山内の言う通り、中村は山内がご指名だった。中村が違う選択肢を出してきた場合には『山内と同期だから少し話したい』と言わなければならなかったので、田嶋としては助かった。相手に勘繰られないことが人事の仕事では重要なのだ。

 まず、テラーの内田と話をする。ここも順番を間違えてはいけない。あくまで今回は窓口の人繰りの問題を聞きに来たとしなければならない。そして、調べたいことだけにフォーカスせずに、様々な問題がないかを会話の中から探らなければならない。今回は山内との面談が主目的だったが、時間は無駄にしてはならない。そもそも、相手の貴重な時間を取ってもらっているのだ。