事実はケイザイ小説よりも奇なり

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帝国銀行、人事部24

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 銀行は同期の繋がりが深い。田嶋の同期は合併前の旧行ベースで100名程度だ。田嶋が入行して数年後に大手行同士の大合併があったが、いわゆる相手先の銀行の同期はあまり知らない。田嶋は就職氷河期真っ只中の年次であるため、同期は非常に少なかった。

 入行店は錦糸町だ。東京のJR山手線の内側のお店に配属されると将来を嘱望されていると同期で噂しあっていたので、配属が発表された時には落ち込んだものだった。しかも、錦糸町は風俗店等があり、ガラがあまり良くない地域だった。最初にジョブローテーションで渉外担当として外回りを経験した際には、少なからず怖い思いもした。

 入行店には同期で田嶋一人が配属されたが、近隣の店舗に配属された同期と仲良くなり「山手線外の会」を結成していた。単純に言えば、エリートではないメンバーで飲んでいただけだったが。

 今日は、久しぶりの山手線外の会の集まりだった。場所は、亀戸。当然、おしゃれな場所では開催しない。

 お店は升本(ますもと)という「亀戸大根」で有名な店だ。「亀戸大根」は別名「お多福大根」と呼ばれ、文久年間(1860~1864)から大正・昭和のはじめ頃まで、亀戸で栽培されていたそうだが、宅地化が進み幻の大根となってしまっていた。その大根を、老舗の升本が甦らせ、名物「亀戸大根あさり鍋」を作ったのだ。

 おしゃれな場所では山手線外の会は開催されない。下町の美味しいものを食べるのが約束事だ。今回の幹事は田嶋だったから、今までに行ったお店のストックから美味しく、コスパが良く、ストーリーがあるお店をピックアップしたのだ。

 お店に入ると、同期の島田が先に来ていた。田嶋と島田は非常に仲が良い。寮も一緒だったし、何といっても名前がほとんど一緒だ。地方出身ということも似ていた。

「おう」田嶋が声をかけると、おしぼりで顔を拭っていた島田がかるく頷いた。

「久しぶりだな。2ヵ月ぶりぐらいか」田嶋がさらに声をかける。

 島田は、新入行員の時は57kgの体重だったが、入行して20年以上が経ち、現在は100kgを超えている。身長は178cmだったはずだ。最初に会ったときは、針金のような細さだったが、今はお腹が突き出ている感じだ。首はもちろんない。野球をやっていたからか、腕は結構長く、既製品のワイシャツは全く着ることができないと愚痴っていたのは前回飲んだ時だったか。島田は浅草法人営業部の次長だ。接待での飲み会も多いようだった。すっかりコロナの影響は無くなっているようだ。

 外していた黒縁の眼鏡を掛け直して、島田が田嶋を見返した。少し脂でつやつやしているが、健康そうだ。