事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

帝國銀行、人事部21

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「それに、控除を使うためには確定申告が必要で、その確定申告に『この経費は業務のために使いました』と会社が証明する必要があります。これも非常に手間となります。会社に年間100万円もスーツを買ったから証明書にハンコを押してくれと従業員が頼んだら、会社の上司はどのように思うでしょうか。その従業員を浪費家だと思うかもしれません。また、当然ながら、会社が従業員が申告してきた経費が業務に使用されたと証明するのは難しいと思われます。何に使ったかは、本当のところは分かりにくいのです。そのため、特定支出控除は効果の少ない、使い勝手の悪すぎる仕組みとなっており、利用者がほとんど存在しないのです」

 質問者のメガネ君は理解したようにうなずいたが、まだ完璧には納得していないようだ。メガネ君が口を開いた。

「解説ありがとうございます。でも、そもそもスーツを着用するのは会社が業務上で求めているからですよね」そう言って、上目遣いに田嶋を見る。メガネ君は田嶋を試しているようだった。

「そうですね。スーツを会社が支給すれば良いという考え方もあるでしょう。会社が従業員のスーツ費用を負担したときには会社の経費には参入出来るようにも思えます。これについても私は人事部なんで回答出来てしまいます」

 メガネ君の目が少しだけ見開かれた。田嶋が続ける。少しだけ笑顔を意識する。