事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

帝國銀行、人事部20

f:id:naoto0211:20200702215425j:plain

「特定支出控除は会社員であっても年間の『特定の支出』の合計額が、給与所得控除額の1/2を超えた場合、その超過金額について所得控除を認め税金を安くするという仕組みです。この『特定の支出』として、8項目が挙げられています。一応記憶はしていますが、正確を期すためにスマホで検索させてもらいます。私よりはGoogleさんの方が記憶力は良いですからね」

 これも学生達から笑いが起こった。良い兆候だ。

「ありました。8項目とは次のようなものです。」

1.通勤費(通勤のための支出)
2.転居費(転任に伴う転居のための支出)
3.研修費(職務の遂行に直接必要な技術又は知識を習得するための研修に関する支出)
4.資格取得費(職務の遂行に直接必要な資格を取得するための支出)
5.帰宅旅費(単身赴任に伴い、赴任先と家族の居住する場所とを移動するための支出)
6.勤務必要経費(※65万円まで)
イ)図書費(職務に関連する図書を購入するための支出)
ロ)衣服費(勤務先において着用することが必要とされる衣服を購入するための支出)
ハ)交際費等(職務上関係のある方に対する接待等のための支出)

 

「この特定支出控除は会社員でもスーツが経費になるという触れ込みでスタートしたものです。しかし、この特定支出控除は端的に言えば使えません。特定支出控除は、前述の給与所得控除の金額の半分以上を使った時にはじめて使える制度です。例えば年収500万円の人なら、給与所得控除は154万円です。年間で154万円÷2=77万円以上の経費を自腹で使わなければなりません。そして仮に100万円を使ったとしても、100万円-77万円=23万円が控除されるため、23万円×税率20%=4万6千円の減税としかなりません。自腹でスーツを100万円買うとすると毎月8万円程度のスーツを買わなければなりません。年収500万円で、これは現実的でしょうか」

 女子学生が顔をしかめて、首を左右に振った。聞いてくれているようだ。