事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

帝國銀行、人事部6

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 人事部に戻るとすぐに直属の上司である副部長の伊東に今回の面談の報告を行う。一通りの内容を聞いた後に伊東が口を開いた。

「田嶋さん、甘いですね。その木村という行員、総合職でしょう? 別に遠隔地に飛ばしても良いですよ。女性総合職に甘い顔をしていると付け上がりますよ。若手の頃から理不尽なことを経験させないと権利ばかり主張する総合職になります。使えない総合職が一名育つだけで周囲にも迷惑をかけます。田嶋さん、あなたはその責任が取れるのですか」

 伊東は、いつもこのような物言いをする。嫌みたっぷりだ。正論な時もあるが、自分の世代が受けてきた理不尽を今の若手達も受けないと気が済まないのではないだろうか。

「今の若手は何をしでかすか分かりませんので、強く言い聞かせておきました。支店長や課長へのフォローもしっかりとします」

「別に良いですよ。好きにすれば。でも、その木村という行員が次に問題を起こしたならば、田嶋さんに責任を取ってもらいましょうか。地方転勤もたまには良いですよ」

 からかったような笑い声がフロアに響く。しかし田嶋は知っている。銀縁の眼鏡の奥で伊東の細い目が笑っていないことを。伊東は演技でしか笑わないのだろう。そして、木村が問題を起こしたら、本当に田嶋に責任を負わせかねない。

 やりにくい上司だ。