翌日の土曜日は少し曇り空だった。昨日はかなりの量のお酒を飲んでいたはずだったが、井澤は朝6時に目が覚めた。いつもならば五時台には目覚めているため、いつもよりは遅い。それでも二十代、三十代の時のようにいつまでも寝ることはできなかった。朝は自然と目を覚ましてしまうのだ。
長く寝るにも体力が必要だ。中高年になると体力が乏しくなり、長い睡眠は無理となるらしい。過去に先輩から言われていたが、本当にその通りだった。そのため、疲れも取れ難い。だから、無理はしない。それが中高年というものだ。昨日の深酒を思い出しながら、そんなことを井澤は考えていた。
朝九時にインターフォンがなった。宅急便だ。妻と娘はまだ寝ている。井澤が応対するしかない。平日は帰宅が遅く、この時間だけが井澤の自由な時間であるため休日に宅急便が来ると少し時間を損した気になる。ただ、妻は自分がネットで頼んだ商品は常に土曜日の午前中に届くようにしていた。井澤が商品を受け取ってくれるからだ。ご丁寧に井澤がゴルフで不在の時は日曜日の午前中に届くようにしている。起きがけのノーメイクの素顔を宅配業者だろうと見せたくないらしい。
商品を受け取るために受け渡し票にサインをした後に送り先が井澤本人になっていることに気づいた。
『誰からだ?』そう思いながら送り主の欄を確認する。井澤がネットで注文することはない。家計は妻が握っており、必要なものは全て妻に注文してもらっていた。送り主欄には『平野恵』との記載があった。
(続く)
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