事実はケイザイ小説よりも奇なり

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【2月20日朝刊④】(ヂメンシノ事件81)

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 「基本的には本人への警告を行い、このリークを止めさせたいが、事を荒立てたくはない。法務部長と相談して対応してくれないか。単純に取締役としての守秘義務への抵触で裁判でも勝てるだろうが、ご本人の性格を考えると、それぐらいでは黙らないだろう。」平野はしばらく無言で考えた。電話の向こうで中居がじっと待っていることが伝わってくる。平野の脳裏にひらめくものがあった。

 『奥平さんが大事にしているものは何だ。名誉か、プライドか。家族か友人か。人から頼りにされることか。いや、そんなことではないだろう。僕が知っている事実は一つしかない。奥平さんの行動原理はカネだ。』これだ。平野は急に口を開いた。

 「当社には役員の退職金代わりの制度としてストックオプションがあったよな。取締役任期中に問題があれば、ストックオプションの権利を取り上げるような契約はないか。奥平さんの役員としての在職期間は長い。ストックオプションの額は相当な金額だろう。ここを狙いたい。」

 「分かりました。ストックオプションですね。法務部と協議します。」

 「いや、法務部ではなく秘書部長経由で顧問弁護士に確認してくれ。この動きは誰にも知られたくない。」

 「承知致しました。」

 平野は電話を切ると深呼吸をした。

 少しお酒が入っているからだろうか。自分はいつになく奥平のような冷徹な考え方と判断をしていたように感じた。権力を持つというのはこういうことなのかと、平野は漠然と思った。そこには一抹の寂しさと孤独感があった。

 

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ヂメンシノ事件