事実はケイザイ小説よりも奇なり

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【2月19日報道②】(ヂメンシノ事件76)

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 ちょうど、二本目のワインが空いたところだった。

 するりと女将が入ってくる。どこかで盗聴してるんじゃないかと思うぐらい、飲み物が無くなるタイミングでやってくるのだ。これもプロの技なのかなと考えていたときに、胸のポケットに入れているスマートフォンが震えた。音は鳴らさないように設定している。

 数十秒は呼び出され続けていただろうか。ふいにスマートフォンの震えは止まった。
何か急ぎがあればメールが来るだろう。

 そう思い、目の前に新たに注がれた赤ワインに手を伸ばす。これもイタリア産だと女将が言っていた。そもそも平野はイタリア産のワインが好きだ。フランスワインはほとんど飲まない。

 妻と行ったイタリア旅行は素晴らしかった。イタリアのトリノで飲んだワインの味に驚いたことは今でも鮮明に覚えている。

 イタリアのワインは、フランスワインほど枯れた味わいがせず、果実味を感じる。生命力を感じるのだ。

 こんなことを言ったら妻は笑うだろう。『味音痴のあなたがワインを語れるのかと。』

 そんなことを考えていたら、またスマートフォンが震え始めた。しかも、呼び出しだ。今や会長となった自分に何度も電話をかけてくるのは余程の理由かもしれない。

 スマートフォンを胸のポケットから取り出すと、広報部長の中居からだった。

 嫌な予感しかしないが、お客様の前で電話に出るわけにはいかない。

 トイレに立つふりをして、席を外し、すぐに折り返した。呼び出し音はならずにすぐに相手が出た。

 「平野だ。何かあったか。」

(続く)

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ヂメンシノ事件