事実はケイザイ小説よりも奇なり

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【1月24日記者会見③】(ヂメンシノ事件74)

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 「それでは質問に移らせて頂きます。」中居広報部長の声が響く。

 一番前の記者がすぐさま手を挙げた。

 「大阪新聞の迫田です。経営トップの交代はいつから考えておられたのですか。新社長への打診はどのタイミングで。」偉そうな話し方だ。それでも平野は誠実に答えることに徹すると決めていた。

 「木村を後継指名したのは半年前です。会長もトップとなって20年、自身も10年やってきました。ひとつの区切りです。今回若返りを図ろうということで決めました。若い力で大きく発展することを期待しています。奥平会長の路線をしっかりと守っていきたいと考えています。」

 次の記者がすぐさま被せてくる。

 「住宅ニュースの森です。今回の記者会見に会長が出ていませんが、どうなさったんですか。」

 「所用で今回は欠席しております。」

 「やはり、新社長を選んだのは会長なんですかね。」

 「ほとんどの会社業務は私が担っています。半年前に木村に社長就任を打診したのも自分です。」平野は少しムキになった雰囲気を漂わせた。木村を選んだのは自分であって奥平ではない。それ自体は事実だった。

 「今回のトップ交代は、五反田のマンション用地を巡る詐欺事件で特別損失を出した責任とは関係ないんですか。」

 一瞬の沈黙が下りた。来るべくして来た質問と言えよう。どう答えようか。

 その時、横から木村が口を開いた。

 「全く関係ありません。」

 言いよどんだ自分の雰囲気を察したのだろう。木村が強く言いきった。こういうところが信頼できる男なのだ。新社長のためにも自分は強くならねばならない。

 「新社長の意気込みをお願いします。」

 「内にも外にもオープンにできる会社にしていきたいですね。」

 この回答を最後に質疑を切り上げ、平野は立ち上がった。木村も続く。

 事前に決めていた通り、そのまま会場を後にし、会見後のぶら下がり取材にも応じなかった。会見場には広報部長の中居だけを残しておいた。

 長い一日が終わった。

(続く)

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ヂメンシノ事件