事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

【1月24日取締役会後②】(ヂメンシノ事件71)

f:id:naoto0211:20190505142249j:plain

 「すまん。肝心なことを伝えるのを忘れていたな。奥平会長は代表取締役を辞任された。奥平会長は取締役相談役となり、次回の株主総会で取締役も退任となる。本日の取締役会で決まった。だから、先程の私の指示を実行しても、君が窮地に陥ることはない。心配しなくて良い。」

 成田の顔が赤くなる。混乱しているのだろう。それでも一言も驚きの声を発しないのはさすがだ。プロフェッショナルというのは、こういう従業員を言うのだろう。

 「本当に心配しなくて良い。それよりも一刻を争うんだ。会長の部屋は封鎖、車は使用禁止、携帯電話もストップだ。今すぐだ。やってくれ。」

 「はい。」

 この部屋に戻って初めて秘書の声を聞いた。

 「それでは失礼します。」

 秘書が出ていくのと入れ替わりで広報部長の中居が入ってきた。

 少し髪が薄くなってきているがダンディな男と言って良いだろう。声は少しかすれたようなハスキーボイスだ。いや、ただの酒やけかもしれないが。

 急に呼び出されて焦って役員フロアに来たのだろう。おでこの辺りが少し汗ばんでいるようにみえる。

 「よく来てくれた。すぐに記者会見を始めるぞ。手配を頼む。」

 「何の記者会見でしょうか。」

 「トップ交代だ。」

 「え。」

 「だから、トップ交代だ。」

 「いや。トップと言いましても・・・・」

 「だから、奥平会長が退任する。私は会長、草薙副社長は副会長、木村が次の社長だ。」

 「ええと、いつ付けですか。」

 「2月1日付だ。」

 「今日は1月24日ですが。」

 「言われなくても分かっている。すぐの交代だ。」

 「しかし、取締役会の議題にはそのようなものは・・・・」

 「無かったよ。つべこべ言うな。記者会見の手配をしてくれ。説明は後からだ。記者会見で私の説明を聞いてくれ。心配なら草薙さんに確認しろ。」

 話をしている間にドアが空く。副社長の草薙が覗いている。頷いた。

 「分かりました。早急に連絡します。今は午後5時過ぎです。午後5時半ぐらいから報道各社に一斉に連絡をしても、記者会見のスタートは一番早くて午後6時半となると思いますが、問題ないでしょうか。」

 「問題ない。」

 「記者会見には私と木村新社長で臨む。以上だ。」

 「承りました。」

 「とにかく詳細は後で説明する。よろしく頼むぞ。」そう平野が話をしている最中に、木村が部屋に入ってきた。緊張した顔つきだが、力のある目をしている。良い目だ。

 「草薙さん、木村。次の戦いだ。よろしく頼みます。」

(続く)

<今すぐに全文を読みたい方はこちら>


ヂメンシノ事件