事実はケイザイ小説よりも奇なり

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【1月24日取締役会⑧】(ヂメンシノ事件68)

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 「知らんじゃないんですよ。こちらは証拠を握りました。最初は知らないふりをしようと思っていましたよ。会長は私を社長にして頂いた恩人ですからね。ひらのめぐみ。略して、ヒラメ。会長の腰巾着だからヒラメとまで言われながら会長をお支えしてきました。しかし、限界です。会長がやっていらっしゃることは会社に損害を与えて、他の不動産仲介会社から信用を失い、代わりに会長の懐を潤すことです。そこを見過ごす訳にはいかないんですよ。」

 「証拠やと。どこにあるんや。今、ここで出せ。適当なことをぬかしてるんだったら名誉毀損で訴えるぞ。」

 「赤坂インターナショナルビルとだけ言えば分かりますか。先程、会長の解職議案に賛成したメンバーには、会長がハジメからキックバックをもらっている証拠を見せていますよ。」

 「な、な、な」

 「言い逃れは出来ません。私は慎重に証拠を集めてきました。全体像を把握したのはつい最近ですが、赤坂インターナショナルビルを購入した時には、ハジメから会長に資金が流れた確かな証拠がありました。恐らく警察に告発することも可能だと思います。証拠隠滅なさる虞もあるので、全体像はお示ししませんが、写真や録音データまであります。」

 「自分は俺をはめるために準備していたんか。」

 「違います。実は、会社を守るために証拠を集めていました。奥平会長の無実を証明しようとして情報を収集していたのです。もちろん奥平会長を陥れるためではなく、マスコミに反論するためです。ところが、残念ながら疑惑を裏付ける情報を入手してしまったということです。重ねて申し上げますが、大変に残念です。」重々しく言い切って、平野は口を閉じた。出席している取締役を一人ひとり見渡す。周りに座っている事務局のメンバーにも視線を投げかけた。

 「このキックバックに関する内容は議事には残しません。お互い墓まで持っていきましょう。これが外部に漏れたらこの会社が潰れる可能性だってあります。社員も路頭に迷います。そんなことをする訳にはいかない。会長、辞任して下さい。最後のお願いです。カッコ良く後進に道を譲ってください。」

 平野は頭を下げた。

 自分の思いは伝わるのか。

 親を裏切るというのはこのような気分だろうか。

 沈黙が流れる。

 まだ頭を上げる訳にはいかない。

(続く)

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ヂメンシノ事件