「会長。方向性は決まりました。」草薙の声が響く。そして言葉を続けた。
「どうですか。議長としてお話をさせて頂きますと、ご自身で辞任なさるのはいかがでしょう。会長、退き時ですよ。」
「は。何を言うてるんや。自分等、寝ぼけてるんとちゃうんか。平野に何を吹き込まれたんや。俺は辞任はせんぞ。首を切れるもんなら、やってみい。おい、草薙も議長とか引き受けるなんて、裏切ったんか。そういえば、お前は平野の参謀役やったもんな。」奥平の声がどんどん大きくなっていった。いつもの余裕があり、オーラがある奥平がそこにはいなくなったようだった。
「会長。そうは仰いますが、勝ち目はないんですよ。さっきご覧になった通りです。私は裏切ったんじゃないですよ。取締役としての責務を果たしただけです。辞任頂けませんか。」
奥平は暫く草薙を睨み続けていたが、平野の方に目を向けてきた。目が少し血走っているように見える。「こら、平野。お前、さっきから黙っとるが、何か言うことはないんかい。独断専行ってなんやねん。五反田の詐欺事件に引っ掛かったのは自分やろうが。」
頃合いだろう。やるか。
(続く)
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