この調査委員会は既に方向性は決まっている。
「社長の責任が重いことについては異議はありません。しかし、退任とするのは少し処分としては重いかもしれませんね。」社外取締役の一人が口を開く。
「本音で言いますと、私としては恥ずかしいんですよ。天下の満水ハウスが詐欺師に引っかかったということがね。今後、色んな詐欺師に狙われますよ。満水ハウスだったら騙せると。我々は家のプロですよ。家のプロは土地取引のプロでもあります。そのプロが詐欺師に騙されたなんて恥ずかしくて外に行けませんわ。」
奥平の言葉が途切れた。沈黙が流れる。
「私はねえ、許せんのですよ。こんなに怪しい複線がたくさんあったのに。何で気付かないのかねえ。慢心ですよ。油断ですよ。誰もがプロとして行動していない。社長が決裁したのだから、もう決まったことだからとやる。こんなことで良いんですかね。平野君が社長やっている10年でこんな会社になっちゃったんですよ。20年間、全体のトップとしてやってきて、こんなに恥ずかしくて悔しい思いをしたのは初めてですよ。」
話が続く。誰もが口を開かない。
部屋の温度が下がっているように感じる。
しかし、自分の体温は上がっているようだ。
頭が朦朧とする。
怒りが込み上げてくる。
『早くやめろ。』
その口を開くのを止めてやりたい。
殴れば止まるだろうか。
「リーマンショックの時、あの時も苦しかった。仕入れていた土地の価値が下がって多額の損失が発生しました。あの時は、皆がしっかりと業務をして、考え抜いて、それでも損失が発生したのだから良しとしようと考えたんですよ。リーマンショックの原因はアメリカでしたしね。しかし、今回は違うんですよ。業務をしっかりと遂行していないんです。怠けてるんです。もちろんリスクチェックを行う法務部長や案件審査を行う不動産部長も責任は取らせましたよ。しかし、やはり社長の責任は重いでしょう。皆さん、社長の退任についてご賛同頂けませんかね。」
委員会では平野を除く全員が社長の退任は妥当と意思表示をした。
完全に追い込まれたといったところか。
ここで委員会は終了となった。
(続く)
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