「失礼します。真中常務と井澤部長がいらっしゃいました。」
「分かった。通してくれ。」
平野が立ち上がりかけた時に、真中と井澤が入ってきた。
おや、と平野は思った。
真中はこんなに小さかっただろうか。顔色もあまり良くない。どす黒いといった表現が正しいだろうか。背が高く、ダークスーツを着こなし、堂々としているのが真中のイメージだが、今日は違っていた。
それでも背筋を伸ばし、どこかすっきりとした顔つきで入室してくる。ダークスーツはいつもの通りシワ一つない。わずかに光沢が入っているチャコールグレーのスーツを見事に着こなしていた。
気のせいだったか。
平野も立ち上がり、机の前の応接セットを指し示した。
「失礼します。」
真中も井澤も同じようなタイミングで声を出していた。さすがに長年の上司部下だ。
平野が先に腰掛けないと二人とも座らないため、平野が先に座る。
「今日はどうしました。」
平野が先に声を掛けた。真中が話しづらそうにしていたからだ。
「本日はお時間を頂きありがとうございます。井澤と一緒に参りましたのは、平野社長にご挨拶をしたかったからです。」
「ご挨拶って?」
「私事ですが、会社に辞表を提出することに致しました。今まで、平野さんには大変お世話なりました。」
(続く)
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