事実はケイザイ小説よりも奇なり

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【11月30日真中と井澤①】(ヂメンシノ事件56)

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 今日は少し肌寒い朝だった。

 平野は通常通り社用車で出社した。本社の地下車寄せで降りると、いつもの通り秘書の成田が迎えにきていた。高層階向けのエレベーターに向かう途中で今日の予定について報告を受けるのが日課だ。

 「本日のご予定ですが、9時から経営企画部長との打ち合わせです。資料は事前に回覧されておりましたが、アパート事業におけるシェアハウス書類偽造問題の影響です。他社の事件ではありますが、銀行の融資姿勢が厳しくなることでわが社のアパート事業にも影響が出る可能性があります。10時半からは、マンション事業本部の真中常務と東京マンション事業部 井澤部長がお越しになります。社長にお伝えしたいことがあるとのことです。」

 「真中さんと井澤君か。五反田の事件で何かあったのかな。」

 「いえ。用件は仰いませんでしたが、恐らく新たなご報告事項やご相談がある訳ではないと思います。お電話口での雰囲気で察しただけですが。」

 秘書の成田の勘はするどい。平野は成田の勘を全面的に信用していた。

 「そうか。分かった。」

 エレベーターが役員フロアに到着した。

 成田がそのまま説明を続けている。

 しかし、平野の耳には半分も話が入って来なかった。

 真中と井澤が来るとはどのような用事だろうか。

(続く)

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ヂメンシノ事件