事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

【草薙と木村①】(ヂメンシノ事件48)

f:id:naoto0211:20190505142249j:plain

 社長室は本社の高層階にある。同じ役員フロアにある会長室とは離れている。フロアの端と端にあるためだ。いずれも角部屋だった。

 草薙と木村には奥平が不在の時間に来てもらった。草薙も木村も奥平に見られたくないだろうとの判断からだ。

 卓上の内線電話がなった。秘書の成田からだ。ふと『携帯電話全盛の時代に、このような固定電話はいつまで存在するのだろうか。』と思った。これからの話には関係のないことだ。

 「草薙副社長、木村常務がお入りになります。」

 「分かった。」平野が返答して10秒も経たず、ノックがされた。

 「失礼します。」

 草薙、続けて木村が入ってきた。二人とも居心地が悪そうに入り口付近で立っている。

 「まあ、座ってください。」そう言いながら机の前にある応接セットに平野自信も腰掛ける。草薙、木村も続いた。

 「部屋に来てもらって申し訳ありません。お二人には相談したいことがありお呼び立てしました。」

 草薙も木村もただ平野を見つめている。

 「最近はお二人にやりづらさとご心配をお掛けしているでしょうね。」平野は草薙と話すときは常に敬語を使うようにしている。役職は自分が上だが、あくまで会社の先輩であるためだ。

 「端的に言えば、私は社長を継続したいと考えています。そのためにお二人にはお力添えをお願いしたい。」木村が目を大きくして驚いた表情をした。しかし、一言も発することはない。草薙は無表情だ。

 「まずは私がなぜ留任したいかをお話しましょう。その後に作戦をお伝えします。」

(続く)


ヂメンシノ事件