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【11月20日取締役会⑥】(ヂメンシノ事件45)

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 草薙は重々しく口を開いた。こんなことを発言したくないのだろう。

 「それは、ご承知の通り、株主総会です。平野社長を株主総会の議案で取締役候補としなければ、株主総会終了後に平野社長は取締役の任期満了となります。」

 「それまでに何とかならんのか。」奥平のボルテージがどんどん上がっていく。

 「本人が辞任するか、臨時株主総会を開くしかありませんね。」

 「そんなん無理やろ。それまで、このアホと付き合わなあかんのか。」

 うんざりした様子で草薙が発言する。

 「その通りです。奥平会長が何とおっしゃろうと、それまでは平野社長は取締役です。取締役の立場は保障されています。」

 「アホらしいわ。日本の法律はなんやねん。」

 「これは、日本のみならず世界各国の株式会社における常識です。」

 草薙は嫌そうに言い放った。

 そろそろ平野の出番だろう。

 「奥平会長。そして取締役の皆様。私は、法律に則り来年4月の取締役の任期が切れるまでは、当社のためにしっかりと役目を果たしたいと考えています。どうかご了承下さい。」

 極力、殊勝に、嫌みなく平野は発言したつもりだった。

 「そんなん知らんわ。とりあえず取締役会はこれで終わりや。草薙副社長。後で法務部長を呼んでくれ。平野への対応を考えるわ。法律なんて無視や。」

 奥平の怒りは止まらない。平野はさらに続けることにした。

 「それでしたら、私にも考えがございます。私個人の顧問弁護士に法律意見書を出させますので、ご確認下さい。」

 「は?弁護士やと。ワシの顔に泥を塗ったやつが何言ってんねん。自分はクビ。クビや。もう次回から取締役会にも出なくてええで。」

 「そういう訳にはいきません。私は取締役です。株主の代理人です。取締役会に出席する義務と権利があります。」

 「次に来たら部屋を閉めたるわ。弁護士でも何でも連れてこい。」

 「はい。次回は弁護士を帯同します。」

 「好きにせえ。はい。これで本日の取締役会は終了です。皆さん、ご不快にさせてしまい申し訳ありませんでした。飼い主に手を噛まれるということは、こういうことなんやな。」

 奥平はそう言いながら、一番に席を立ち、部屋を出ていった。

 次に社外取締役が出ていく。誰も平野には目を合わさなかった。

 社内の取締役達も次々と立ち上がり出ていく。

 草薙と木村が残った。

 何か伝えたいことがあるのだろうか。こちらを気にするように見ていた。

 「今日は不快な思いをさせましたね。」そう声をかけて、平野も取締役会の開かれていた会議室を出た。

 今日の廊下は、ただただ暗かった。

(続く)

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ヂメンシノ事件