「奥平会長。私の退任問題を話し合うとはどういうことをおっしゃっているのでしょうか。議題は何ですか。」
「平野社長。何を言いたいんや。」奥平が面倒臭そうに返してきた。
「退任とはどのような意味でしょうか。」
「退任は退任や。クビというこっちゃ。」
「そうですか。では、申し上げますが、取締役会で議論ができるのは私を代表取締役から外すことだけです。奥平会長がどんなに権力がおありになろうとも私をクビには出来ないのです。」
「どういうことや。自分は何を言ってんねん。」
「会社法を勉強して下さいと申し上げております。」
「何やと。」
「私の取締役としての立場は、株主から負託されたものです。従って、私を取締役会ではクビに出来ないということです。私から奪うと言えるのは代表取締役という立場だけです。」
奥平の顔が赤くなっていく。いつもの銀縁の眼鏡の奥がぎらついた。
「草薙副社長。平野社長は何を言っているのか解説してくれんか。管理系のトップとしてな。」
いつも冷静な草薙は、しばらくの沈黙の後、話始める。
「えー、奥平会長からのご質問についてお答え致します。平野社長がおっしゃっている内容は正しいと言えます。すなわち、この取締役会では平野社長の代表取締役としての立場を解任することはできます。しかし、平野社長は、代表取締役を解任されても取締役としては残ります。社長を他の誰かに交代させることはできても、平野取締役は取締役会に残る訳です。」
奥平が声をあらげた。
「じゃあ、平野はいつクビにできるんや。」
(続く)
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