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【11月20日取締役会④】(ヂメンシノ事件43)

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 ・・・・・・1分が経過しただろうか。誰もが声を発していなかった。平野はただ待ち続けた。沈黙こそが重要な時がある。今がその時だ。相手は動くしかない。相手の出方を待つのだ。これ以上、平野は発言することは逆効果になる。
 平野には楽観視したい気持ちはある。平野は奥平にとことん仕えてきた。忠誠心は誰にも負けなかったのではないか。そんな平野の発言を聞き、奥平の怒りが収まってくれればありがたい。留任したいという言葉を受け入れて欲しい。

 しかし、奥平の性格を考えると、甘い考えにすがってもいられない。

 それでも平野は争うのが好きではない。奥平が折れてくれるのを期待して待った。

 更に1分が経過した頃、奥平が顔を上げ、平野を見た。

 「平野社長のご発言には驚きましたよ。私は、てっきり全取締役に謝罪して、退任すると言ってくれると思っていましたわ。ご本人がそのようにおっしゃるなら、しゃあないですな。」

 ことさらに奥平が笑みを浮かべた。平野にとっては甘い希望が打ち砕かれた瞬間だった。平野は奥平の性格を熟知している。

 「ならば、平野社長の処遇については、人事・報酬諮問委員会にて議論してもらいましょう。平野社長もメンバーではありますが、ご本人に関わることなので他のメンバーで検討することになります。和久取締役。対策委員会の分析は、12月には最終報告が纏まりますかね。」

 「奥平会長。12月までには十分にまとまると思います。」

 和久取締役がぼそっと答えた。冷静ではあるが、いつもの闊達さは感じられない。

 「分かりました。それでは次回取締役会にて平野社長の退任問題を議論しましょう。」
奥平の話し方は、いつになく粘着質だった。口元に半笑いを浮かべている。その表情を見た瞬間に平野にスイッチが入った。

(続く) 

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ヂメンシノ事件