「何言ってるんや。」
奥平の怒声が響く。
「勝手なこと言ってるやないか。自分、どんなつもりや。責任逃れちゃうんかい。」
畳みかけるように言葉が浴びせられる。完全に関西の『たちの悪い』おっちゃんになっている。
平野はあくまで冷静に続けなければならない。
「奥平会長。申し訳ありませんが、もう少し話をさせて下さい。私にとっては最後かもしれませんから。」
最後の一言が効いたのか、奥平が開きかけた口を閉じた。
「私は、会長が海外事業に取り組まれている間に、国内事業を統括してきました。海外事業には国内の利益を注ぎ込んでいます。それでも、国内事業は順調に成長を続けてきました。全社の利益は過去最高を更新し続けています。今回の五反田の詐欺事件による損失額は無視できない金額です。現場の営業担当者が何棟もアパートや戸建てを受注しなければ埋められない損失額です。しかし、その詐欺事件の損失額があっても、我が社は今期は過去最高益を更新するでしょう。全般的に申し上げれば、私の経営は間違っていません。詐欺事件への責任はありますが、辞任するまでの責任があるとは、私は考えていません。以上です。」
平野は座席に深く座り直した。少し前のめりになっていたようだ。冷静沈着に発言するつもりだったが、感情が入ってしまったようだった。
取締役会の議場は静まりかえっている。誰もが戸惑っているのだろう。必然的に、取締役全員の視線は会長の奥平に向かっていた。この状況を動かすことができるのは奥平だけなのだ。
(続く)
<今すぐに全文を読みたい方はこちら>