事実はケイザイ小説よりも奇なり

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【建築家と会長②】(ヂメンシノ事件10)

 石橋に対する奥平のライバル心は凄まじかった。例えば、石橋が勲章を受けた時も「なぜ自分が貰っていないのだ」と怒り心頭だった。その後、様々な手を使って奥平が勲章を受けられるように手配したのは平野だった。所管省庁である国交省への働き掛けのみならず、懇意にしている国会議員への根回し、はたまた政府に影響を与えそうな大学教授まで巻き込んで流れを作り上げたのだ。

 もちろん、ヤマトハウスの石橋会長が受章した勲章と同等以上でなければならない。やっとの思いで奥平に勲章をプレゼントしたのだが、受章が決まったときに奥平から言われたのは一言だった。

 「何で俺が石橋に遅れをとらなあかんのや。お前がしっかりしてないからやろ。」

 奥平のヤマトハウスへのライバル心の強さを身に染みて実感していた平野は、経営トップ交代でもライバル心を剥き出しにすると確信できた。

『本当に自分は切られるかもしれない。』

 そういう思いが一度浮かんだ。心の中に取れない染みが付いたように、ずっとその疑念は残っていた。

 会長の奥平にはお世話になった。しかし、そろそろワンマンぶりにも目に余るものが出てきていたのも事実だ。

 以前、社長就任を打診されたバーで言われたことを思い出す。

 「俺は後10年やりたいんや。10年は力を貸してくれ。その後は、お前の好きなようにしてかまわん。」

 『あの言葉は守られるんだろうか。』

 恩人を信じたい気持ちと、最近の言動を見ていると信じられない気持ちとが交互に押し寄せてきて、平野は当惑していた。

(続く)

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ヂメンシノ事件