平野のデスクの電話が鳴った。
「社長。」
秘書の声が響く。
いつもの通り、はっきりと聞きやすい声だ。無駄なことを一切話さない社長秘書の成田からだった。もう少しくだけても良いと思うが、一切スタンスは変えない。もう秘書になってから5年は経つのではなかったか。
「マンション事業本部の真中常務からのお電話ですが、取り次いでよろしいでしょうか。」
「ああ、繋いでくれ。」
一瞬の間の後、少しハスキーな初老の男の声が聞こえた。
「真中ですが、少しご相談したいことがあります。今、お時間を頂いてもよろしいでしょうか。」
「こうして電話に出ているんだから問題ないですよ。どうしました?」
「前向きに購入を検討したい大型物件がありまして、社長にご相談したかったんです。場所は五反田。海猫館という名前をご存知でしょうか。」
「海猫館。どこかで聞いた名だな。」
(続く)
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