事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

ヂメンシノ事件

【1月24日取締役会③】(ヂメンシノ事件63)

退室後は取締役会を開催している会議室の二つとなりの部屋に秘書室のメンバーが通してくれた。 隣の部屋ではなかったのは、自分が壁に耳をあてて議論を聞くことを警戒してのことかもしれない。いや、考え過ぎだろう。 同席してもらっている弁護士二名は無表…

【1月24日取締役会②】(ヂメンシノ事件62)

定刻5分前に入室をする。既にほとんどの取締役が入室していた。 現時点で不在なのは会長だけのようだ。取締役の一人がこちらをみて驚いた顔をしている。平野は弁護士二名を伴って入室していた。 「こちらは弁護士さんだ。本日の議事についてアドバイスを頂く…

【1月24日取締役会①】(ヂメンシノ事件61)

午後2時に取締役会がスタートする。平野の運命を決める会議だ。取締役会の議長は会長だ。 取締役会という言葉を聞いたことがある人は多数存在するだろうが、取締役会の権限については実際の取締役であったとしてもきちんと把握しているのは珍しいのではない…

【1月24日人事・報酬諮問委員会②】(ヂメンシノ事件60)

この調査委員会は既に方向性は決まっている。 「社長の責任が重いことについては異議はありません。しかし、退任とするのは少し処分としては重いかもしれませんね。」社外取締役の一人が口を開く。 「本音で言いますと、私としては恥ずかしいんですよ。天下…

【1月24日人事・報酬諮問委員会①】(ヂメンシノ事件59)

1月24日の取締役会当日は、午後1時より人事·報酬諮問委員会が開催された。 この委員会は会社のコーポレートガバナンス基本方針にも記載し公表している会社の正式な組織だ。 取締役の選任は株主総会の議決事項だが、取締役会が、取締役·執行役員の選解任等を…

【12月7日取締役会】(ヂメンシノ事件58)

12月7日の取締役会では関係者の処分が決議された。 まず、真中だが辞任となった。会社としては解雇はしなかったが自主的に満水ハウスからは去ってもらったということだ。 真中のマンション事業部長の役割は、暫定措置として東日本のアパート建築部署の担当役…

【11月30日真中と井澤③】(ヂメンシノ事件57)

「ちょっと待って下さいよ。何ですって。」 「私は五反田の詐欺事件の責任を取り、退職させて頂きます。本件では、平野さんにまで多大なご迷惑をお掛けすることになってしまい、本当に申し訳ありませんでした。」 「いやいや。どうしたんですか。まだ、委員…

【11月30日真中と井澤②】(ヂメンシノ事件59)

「失礼します。真中常務と井澤部長がいらっしゃいました。」 「分かった。通してくれ。」 平野が立ち上がりかけた時に、真中と井澤が入ってきた。 おや、と平野は思った。 真中はこんなに小さかっただろうか。顔色もあまり良くない。どす黒いといった表現が…

【11月30日真中と井澤①】(ヂメンシノ事件56)

今日は少し肌寒い朝だった。 平野は通常通り社用車で出社した。本社の地下車寄せで降りると、いつもの通り秘書の成田が迎えにきていた。高層階向けのエレベーターに向かう途中で今日の予定について報告を受けるのが日課だ。 「本日のご予定ですが、9時から経…

【秘書⑥】(ヂメンシノ事件55)

「他に誰も来なかったのかな。」 「はい。申し訳ないのですが、今回は私だけです。」そう言って成田が頭を下げた。 「いや、全然問題ないが若い女性とおじさんというのはちょっとね。」 「実は、今回は誰も誘っていないんです。」そう言って成田は早口に喋り…

【秘書⑤】(ヂメンシノ事件54)

「あ、社長。」いつもよりは少しだけ赤い顔をした成田が声をかけてきた。 「おう。」と声をかけすれ違おうとしたところだった。 「あの、二次会に行きませんか。一度行ってみたいバーが近くにありまして、お付き合い頂けないでしょうか。」 あまりにも意外な…

【秘書④】(ヂメンシノ事件53)

役員は平野と副社長の草薙の2名のみだ。他に秘書部長がおり、3名以外は10名全部が女性だった。 昔から平野は草薙と馬が合う。年齢も近く、草薙は平野の1学年年上だ。平野は経営企画や営業、草薙は財務と役割は異なっていたが、考え方は似ていた。二人と…

【秘書③】(ヂメンシノ事件52)

平野が会社を出発したのは17:40だ。秘書の成田に『面倒だろうから一緒に社長車に乗っていくか』と聞くと、今日の主役である副社長担当秘書と一緒に同乗するという。 乗車時には成田が助手席に乗り、副社長担当秘書が平野の左に座った。 満水ハウスの社…

【秘書②】(ヂメンシノ事件51)

クリスマスイブが近い12月中旬だった。 草薙副社長の担当秘書が夫の海外転勤に伴い退職することになっていた。その送別会に平野も誘いを受けた。 忘年会シーズンだったが、たまたま平野のスケジュールが空いていた日の開催だったからだ。平野としては年に…

【秘書①】(ヂメンシノ事件50)

社長秘書の成田は余計なことを一切発言しない。 『簡潔』『シンプル」』『無駄がない』という言葉が似合う。 電話では言葉少なく、用件もしくは結論のみを話す。メールも非常に短く、3行程度。歳は今年入社10年だったはずなので、32~33歳だろう。 外見…

【草薙と木村②】(ヂメンシノ事件49)

木村がわずかにうなずいた。やはり木村は『こちらサイド』だ。 「草薙さんには以前お伝えしたことがありますが、私は満水ハウスを普通の会社にしたいと考えています。オープンで議論が出来る会社にしたいのです。現在は、奥平会長が了解すれば何でも出来てし…

【草薙と木村①】(ヂメンシノ事件48)

社長室は本社の高層階にある。同じ役員フロアにある会長室とは離れている。フロアの端と端にあるためだ。いずれも角部屋だった。 草薙と木村には奥平が不在の時間に来てもらった。草薙も木村も奥平に見られたくないだろうとの判断からだ。 卓上の内線電話が…

【平野と奥平②】(ヂメンシノ事件47)

「ここで私が退任したら、満水ハウスは奥平会長に誰も逆らえない企業となってしまいます。それを私は危惧しています。」 「は。アホか。ワシの言うことを聞くのが組織やないか。CEOはワシや。」 「そのお考えが危険だと申し上げているのです。」 「自分。喧…

【平野と奥平①】(ヂメンシノ事件46)

取締役会が紛糾し、平野が奥平に反抗した翌日のことだった。 奥平の秘書である松本より奥平が呼んでいるのですぐに会長室に来てほしいとの連絡があった。 松本からの電話を切った後、平野はしばらく動かなかった。深呼吸をし、頭をクリアにする。 昨日から予…

【11月20日取締役会⑥】(ヂメンシノ事件45)

草薙は重々しく口を開いた。こんなことを発言したくないのだろう。 「それは、ご承知の通り、株主総会です。平野社長を株主総会の議案で取締役候補としなければ、株主総会終了後に平野社長は取締役の任期満了となります。」 「それまでに何とかならんのか。…

【11月20日取締役会⑤】(ヂメンシノ事件44)

「奥平会長。私の退任問題を話し合うとはどういうことをおっしゃっているのでしょうか。議題は何ですか。」 「平野社長。何を言いたいんや。」奥平が面倒臭そうに返してきた。 「退任とはどのような意味でしょうか。」 「退任は退任や。クビというこっちゃ。…

【11月20日取締役会④】(ヂメンシノ事件43)

・・・・・・1分が経過しただろうか。誰もが声を発していなかった。平野はただ待ち続けた。沈黙こそが重要な時がある。今がその時だ。相手は動くしかない。相手の出方を待つのだ。これ以上、平野は発言することは逆効果になる。 平野には楽観視したい気持ち…

【11月20日取締役会③】(ヂメンシノ事件42)

「何言ってるんや。」 奥平の怒声が響く。 「勝手なこと言ってるやないか。自分、どんなつもりや。責任逃れちゃうんかい。」畳みかけるように言葉が浴びせられる。完全に関西の『たちの悪い』おっちゃんになっている。 平野はあくまで冷静に続けなければなら…

【11月20日取締役会②】(ヂメンシノ事件41)

「ただいま、議長からご指名に預かりましたようですので、代表取締役社長兼COOの平野から少しお話をさせて頂きます。」 平野は取締役会で初めて『代表取締役社長兼COO』と自らのことを呼んだ。あくまで堅苦しく、法律や規定に則って対応している自分を演出す…

【11月20日取締役会①】(ヂメンシノ事件40)

11月20日14時。取締役会がスタートした。 今回の取締役会は物件の取得等についての議題があったものの、大きな議題ではない。参加する取締役の誰もが『その他』としか記載されていない議題に注目していると想定された。 取締役会の議長はいつも通り奥平だ。 …

【11月20日取締役会前の朝②】(ヂメンシノ事件39)

今は、大工こそが住宅の性能を左右する。しかし大工は高齢化により人手不足となった。満水ハウスは、大工の人手不足を補うために、熟練者でなくとも施工が行えるように、可能な限り工場で部材を組み立て、現場の工事を標準化してきた。1週間ぐらい研修を行え…

【11月20日取締役会前の朝①】(ヂメンシノ事件38)

11月20日は秋晴れと言っても良い天気だった。朝方の気温はさすがに高くはなかったが、天気予報では最高気温15度と言っている。 今日は比較的暑くなりそうだが、それ以上に平野にとっては重要な、暑い一日だ。 朝食はヨーグルトとフルーツで簡単にすませる。 …

【10月某日自宅④】(ヂメンシノ事件37)

「社長を退任することになるかもしれない。来年4月の株主総会でだ。会社には完全に残れないかもしれないな。」悲壮感を漂わせないように発した平野の声はすぐにかき消された。 「あら、良かったじゃない。」明るい声が響く。 「あなた、いつも言っていたじゃ…

【10月某日自宅③】(ヂメンシノ事件36)

部屋着に着替えてダイニングに向かうと、良い匂いがしてくるのが分かる。ドアを開けるとダイニングテーブルの上に様々な皿が並んでいた。 「いや、これはごちそうだね。接待かと思ったよ。」 「そうでしょう。力作よ。知り合いから頂いたお惣菜もあるけどね…

【10月某日自宅②】(ヂメンシノ事件35)

考えている間に自宅に到着した。 平野はインターフォンを鳴らすことはない。自宅に妻がいても自ら鍵を開ける。 これは自分の性格なのだろう。平野は、自分が何かをやっている時に人から邪魔されるのが嫌いだ。勝手だとは思うが、宅配便が休日に家に来るのも…