事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

帝國銀行、人事部21

「それに、控除を使うためには確定申告が必要で、その確定申告に『この経費は業務のために使いました』と会社が証明する必要があります。これも非常に手間となります。会社に年間100万円もスーツを買ったから証明書にハンコを押してくれと従業員が頼んだら、…

帝國銀行、人事部20

「特定支出控除は会社員であっても年間の『特定の支出』の合計額が、給与所得控除額の1/2を超えた場合、その超過金額について所得控除を認め税金を安くするという仕組みです。この『特定の支出』として、8項目が挙げられています。一応記憶はしていますが、…

帝国銀行、人事部19

「ご質問頂いてありがとうございます。良い質問ですね」 田嶋は学生から質問が出る度に、このように伝えることにしている。質問しやすい雰囲気を作るためだ。 今の学生はSNSや就活サイトに何でも書き込む。印象が悪ければ、自分の名前が世の中にさらされかね…

帝國銀行、人事部18

ここは採用セミナー会場の片隅だ。田嶋は採用の手伝いで訪れていた。田嶋の目の前には数十人の学生が座り真面目にメモをしている。どの学生もいわゆるリクルートスーツで固めている。男性はネイビー、女性はチャコールグレーかブラックだ。個性を感じること…

帝國銀行、人事部17

山階が退出した会議室で田嶋は一人で天井を見上げていた。とにかく、今回は乗り切った。それだけだ。 今日も田嶋は面談後に本店に帰る。上司の伊東は、いつも遅くまで残っている。確かに忙しいのだろうが、人事部長が帰らない限りは帰らないという方が正しい…

帝國銀行、人事部16

「山階さんが言及されたのはあくまで地方裁判所レベルの判決です。最高裁で判決が出て、初めて日本全体でのルールが決まっていくのでしょう。当行としては、現行の人事制度および労働時間管理については問題が無いと考えています。でも私は貴店の担当です。…

帝國銀行、人事部15

「労働組合ですか」田嶋がやっと声を出す。 「そうです。私が管理監督者であることの理不尽さを教えてくれたのは、当行の労働組合の方ではなく、社外の金融機関の労働組合の方です。まだ加入はしていませんがね」 『やはり外部の労働組合だったか』田嶋は背…

帝國銀行、人事部14

三井倉庫港運事件(最高裁第一小法廷平成元年12月14日)という裁判例が存在する。人事関係者か労働組合関係者ぐらいしか知らないだろう。判決の要旨は次の通りだ。 「ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合…

帝國銀行、人事部13

ユニオン・ショップとは、会社側が、労働組合との協定であるユニオン・ショップ協定を締結し、組合員ではないものを解雇する義務を負うことを内容とする制度のことを言う。単純に言えば、ユニオン・ショップ協定というのは企業内に会社が公式に認定する唯一…

帝國銀行、人事部12

「この通達をご存知ですよね」山階が暗い声を出す。 「これを知らない人事部担当は無能と聞きました。田嶋さんは明らかに驚いた表情をなさっていましたから、やはり知っているのでしょうね」そう言って山階は微笑んだ。先程まで田嶋の目の前にいた銀行の中で…

帝國銀行、人事部11

山階が示したペーパーは昔の労働省が出した通達だった。内容は次の通りだ。 都市銀行等における「管理監督者」の範囲(昭和52年2月28日基発第104号の2) (1)取締役、理事等役員を兼務する者 (2)出先機関を統轄する中央機構(本部)の組織の長で、1. 経…

帝國銀行、人事部10

「私は、山階さんが、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していると思います。外為は海外とのやり取りですから、時間も海外支店に合わせる必要があると思います。そして、当行は主任調査役としての山階さ…

帝國銀行、人事部9

田嶋はイライラしながら、外見は神妙に首を縦に振る。しかし、山階は田嶋を見ていない。自分の世界に没頭しているようだ。 「残業代がつかない理由は、管理監督者は、自己の勤務において裁量の余地が大きいことから、労働基準法の適用を除外しても保護に欠け…

帝國銀行、人事部8

「田嶋さん。あなたは管理監督者がどのようなものか勉強しているのですか」 田嶋の目の前で、渋谷支店外為課の山階が怒気をはらんだ顔で話を続けている。 山階は外為課の主任調査役だ。入行して25年超のベテラン行員であり、半年前に渋谷支店に異動してきた…

帝國銀行、人事部7

田嶋のフルネームは田嶋貴男だ。タジマタカオ。人気のあった渋谷系バンドであるオリジナルラブのボーカルと漢字は一文字違い、読み方は一緒だ。一時期、オリジナルラブから派生して、あだ名を『ラブ』もしくは『ラブっち』と呼ばれていたことがある。田嶋は…

帝國銀行、人事部6

人事部に戻るとすぐに直属の上司である副部長の伊東に今回の面談の報告を行う。一通りの内容を聞いた後に伊東が口を開いた。 「田嶋さん、甘いですね。その木村という行員、総合職でしょう? 別に遠隔地に飛ばしても良いですよ。女性総合職に甘い顔をしてい…

帝國銀行、人事部5

木村が会議室から出ていくのを見守る。その後ろ姿に最後に声をかけた。 「私は、銀行は人が全てだと思っています。これからもご意見を気軽にください」 木村に聞こえたかは分からない。扉が閉まった瞬間に、パイプ椅子に座り直す。 『疲れた』田嶋の率直な感…

帝國銀行、人事部4

「ありがとうございました」かぼそい声で木村が頭を下げた。顔を上げた時には、瞳に少し光が感じられた。 「田嶋さんのように法律にまで言及して説明してくださった方はいませんでした。さすが人事のプロなんですね」 ここからがだめ押しだ。田嶋は優しい口…

帝國銀行、人事部3

木村の白い顔は、今や全体が赤く紅潮していた。左目からも涙が溢れてきた。それでも田嶋は話し続ける。 「ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件という判例があります。これは飲み会においてパワハラを認定した事件ですが、上司が極めてアルコール…

帝國銀行、人事部2

ここは帝國銀行目黒支店の殺風景な会議室だ。床はベージュかグレーか良く分からない色のタイルが敷いてあり、何かを引きずった跡があちこちに見られる。壁際には、折り畳み式の椅子とテーブルが畳んで並べられている。田嶋は木村と広い会議室で向き合ってい…

帝國銀行、人事部1

「納得いきません」 目の前で、新人の女性行員が涙目で抗議している。 「なぜ、私が支店の雰囲気を悪くしていると言われなければならないんですか。支店の飲み会は業務ですか。強制的に参加しなきゃいけないなんておかしいですよね」 向かい側に座っている田…

新たな小説「帝國銀行、人事部」の連載を始めます!

読者の皆様へ コロナ禍の中、少し時間が出来たので小説の連載を始めようと思います。 私が小説を書くのは二作目で、一作目は泣かず飛ばずでしたが、良い経験でした。 新たな小説のタイトルは「帝國銀行、人事部」です。 作ってみた表紙のイメージは以下です…

なぜ小説出版を目指すのか

筆者は、クラウドファンディングで小説の出版を目指しています。 残り27日で987冊の申し込みがないと、チャレンジは失敗となります。 銀行員がクラウドファンディングを使うというのは、どうも自らの業務を否定しているような気がしますが、これも時代の流れ…

小説出版を目指しクラウドファンディングをスタートしました!

皆様へ この度、幻冬舎さんとCAMPFIREさんが合弁出資しているEXODUSさんから、小説出版のクラウドファンディングを実施することになりました。 (当初はもう少し早くスタートする予定でしたが遅くなってしまいました) 「ヂメンシノ事件」 - exodus このプロ…

いよいよ小説出版のクラウドファンディングが始まります!

皆様へ いよいよ、幻冬舎さんとCAMPFIREさんが合弁出資しているEXODUSさんから、小説出版のクラウドファンディングを実施することになりました。 10月18日から募集開始する予定ですが、事前にお知らせさせて下さい。 camp-fire.jp https://camp-fire.jp/proj…

クラウドファンディングでの小説出版~募集ページの初稿完成~

先日お伝えしたクラウドファンディングによる小説出版について、改めてお知らせいたします。 (前回記事) クラウドファンディングExodus(エクソダス)に挑戦します! - 事実はケイザイ小説よりも奇なり 10月の中旬から募集を行う予定ですが、現時点では募…

クラウドファンディングExodus(エクソダス)に挑戦します!

読者登録を頂いている皆様、お久しぶりです。 この度、チャンスを頂き、クラウドファンディングにてEXODUSからの出版に挑戦することになりました。(サイトは以下)https://exodus.jp/ 現在、当ブログにて公開している「ヂメンシノ事件」を改訂して出版を目…

【ヂメン】(ヂメンシノ事件93/最終話)

久しぶりに平野は自宅にいた。今日はゴルフもなく、単なる休みだ。先週、桜のピークを迎え、今は葉桜となっている。 平野はくつろぎながら今のソファで妻と話をしていた。テーブルには妻が最近はまっている中国茶があった。 「僕は地面という言葉が嫌いだよ…

【井澤④】(ヂメンシノ事件92)

井澤に平野という親戚はいない。親戚で『恵』と名前のつく女性もいなかった。ただ、どこかで見た名前だ。『平野・・・・?恵・・・・?』誰だろう。包みを開けながら思い出そうとする。最近、年を取ったせいか人の名前が思い出せなくなっている。 包みを開け…

【井澤③】(ヂメンシノ事件91)

翌日の土曜日は少し曇り空だった。昨日はかなりの量のお酒を飲んでいたはずだったが、井澤は朝6時に目が覚めた。いつもならば五時台には目覚めているため、いつもよりは遅い。それでも二十代、三十代の時のようにいつまでも寝ることはできなかった。朝は自…