事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

【ヂメン】(ヂメンシノ事件93)

久しぶりに平野は自宅にいた。今日はゴルフもなく、単なる休みだ。先週、桜のピークを迎え、今は葉桜となっている。 平野はくつろぎながら今のソファで妻と話をしていた。テーブルには妻が最近はまっている中国茶があった。 「僕は地面という言葉が嫌いだよ…

【井澤④】(ヂメンシノ事件92)

井澤に平野という親戚はいない。親戚で『恵』と名前のつく女性もいなかった。ただ、どこかで見た名前だ。『平野・・・・?恵・・・・?』誰だろう。包みを開けながら思い出そうとする。最近、年を取ったせいか人の名前が思い出せなくなっている。 包みを開け…

【井澤③】(ヂメンシノ事件91)

翌日の土曜日は少し曇り空だった。昨日はかなりの量のお酒を飲んでいたはずだったが、井澤は朝6時に目が覚めた。いつもならば五時台には目覚めているため、いつもよりは遅い。それでも二十代、三十代の時のようにいつまでも寝ることはできなかった。朝は自…

【井澤②】(ヂメンシノ事件90)

おかみさんがナムルや前菜を運んできた。皿を並べながら、西川のお箸を左側に置き換えた。おかみさんも西川が左利きだと覚えていてくれたのだろう。 生ビールで乾杯した後に、西川が口を開いた。 「酔う前に言っておく。会社辞めるなよ。」目を合わさず、た…

【井澤①】(ヂメンシノ事件89)

金曜日の夜、井澤は会社の同期と赤坂見附の韓国料理屋で待ち合わせした。 満水ハウスは新入社員を数多く採用するが井澤の年齢まで残っている同期は少ない。ほとんどの同期は支店の営業に配属されるが、ノルマが厳しく三年以内にかなりの割合が辞めていた。 …

【3月スピーチ③】(ヂメンシノ事件88)

「どうか、どうか、満水ハウスに今一度力を貸して下さい。社員一人ひとりが力を発揮できればライバルとの競争にも生き残れます。少子高齢化も乗り切るのです。我々は住宅メーカーです。お客様の財産を、人生を守り、育んでいく家を作っているのです。ご承知…

【3月スピーチ②】(ヂメンシノ事件87)

今回の経営体制は、平野のワンマンではなく、集団指導体制とでも呼ぶべきものになった。誰かが突出して権限を持てば、その個人の『良心』に依拠した経営となってしまう。トップの暴走を止められるような経営体制を平野は目指したかった。そのため、取締役の…

【3月スピーチ①】(ヂメンシノ事件86)

「皆さん、新しく会長になりました平野です。今回、全社員向けに私の口から直接お話を伝えたいと思い、このような場を設けさせてもらいました。地方拠点の皆さんはDVDでの視聴となりますがお許し下さい。」 平野は大勢の前でのスピーチが苦手だ。奥平は得意…

【3月6日もう一つのプレスリリース②】(ヂメンシノ事件85)

このプレスリリースには、マスコミからは調査対策委員会の報告書全文を開示すべきだとの指摘もあった。もちろん奥平はマスコミに更にリークしていた。調査対策委員会の報告書には平野の責任が明記されてあると何度もマスコミに告発しているのだ。しかし、批…

【3月6日もう一つのプレスリリース①】(ヂメンシノ事件84)

分譲マンション用地の取引事故に関する経緯概要等のご報告 8月2日付で発表いたしました『分譲マンション用地の購入に関する取引事故につきまして』(以下、「本件」といいます。)に関し、社外役員による『調査対策委員会』の1月24日付調査報告書を受領いたし…

【3月6日プレスリリース】(ヂメンシノ事件83)

2月20日以降、様々なマスコミが満水ハウスのトップ交代をクーデターと報道した。奥平が様々なマスコミの取材を受けるため加熱していくのだ。 奥平に接触しようとしたが、個人の携帯電話には全く出なかった。顧問弁護士からは、相手は全ての通話を録音してい…

【2月20日朝刊⑤】(ヂメンシノ事件82)

明け方まで断続的に対応を検討し、プレスリリースの案文が出来たのは朝9時だった。 2月20日『代表者異動に関する一部報道について』 2月19日 18:02付、日本経済新聞電子版の「イブニングスクープ」を始めとする速報道で弊社代表取締役交代人事に関する報道が…

【2月20日朝刊④】(ヂメンシノ事件81)

「基本的には本人への警告を行い、このリークを止めさせたいが、事を荒立てたくはない。法務部長と相談して対応してくれないか。単純に取締役としての守秘義務への抵触で裁判でも勝てるだろうが、ご本人の性格を考えると、それぐらいでは黙らないだろう。」…

【2月20日朝刊③】(ヂメンシノ事件80)

会食終了後、社長車に乗り込んだ瞬間に中居に電話を入れる。 「中居部長。内容は確認した。満水ハウスとしての声明文を出そう。まずは案文を作ってくれ。草薙さんと木村新社長にも共有だ。そしてプレスリリース前には他の社内役員のみならず社外役員にも共有…

【2月20日朝刊②】(ヂメンシノ事件79)

どう考えてもこれは守秘義務違反ではないか、というのが平野の第一印象だ。 特に問題なのは、調査委員会が『執行の責任者には重い責任がある』と報告書に記載したこと、そして社外役員との会議で『全会一致で平野社長退任は妥当との判断が下されていたこと』…

【2月20日朝刊①】(ヂメンシノ事件78)

(ヂメンシノ事件 2月20日の朝刊で日経新聞が満水ハウスに関する記事を掲載した。ネットでの配信は19日だった。 『会長交代、実は解任』 戸建住宅大手、ハウスの2月1日付のトップ人事で、会長の退任の実態は解任だったことが明らかになった。 詐欺事件の責任…

【2月19日報道③】(ヂメンシノ事件77)

「会長。まずいことになりました。とりあえず本日はご自宅に帰るのはやめて下さい。ホテルは秘書に手配させます。」 「分かった。で、理由は。接待中だから手短に。」 「奥平相談役がトップ交代について日本経済新聞に話しました。先程、ニュース速報で記事…

【2月19日報道②】(ヂメンシノ事件76)

ちょうど、二本目のワインが空いたところだった。 するりと女将が入ってくる。どこかで盗聴してるんじゃないかと思うぐらい、飲み物が無くなるタイミングでやってくるのだ。これもプロの技なのかなと考えていたときに、胸のポケットに入れているスマートフォ…

【2月19日報道①】(ヂメンシノ事件75)

大阪西天満の料亭にいた。 平野は初めて会食を共にするお客様や話があまり盛り上がらない取引先との接待ではこの店を使っていた。 この店は、オーソドックスで料理には面白味がない。当然、美味しいのだ。高い値段をとってるのだから当たり前だ。しかし、驚…

【1月24日記者会見③】(ヂメンシノ事件74)

「それでは質問に移らせて頂きます。」中居広報部長の声が響く。 一番前の記者がすぐさま手を挙げた。 「大阪新聞の迫田です。経営トップの交代はいつから考えておられたのですか。新社長への打診はどのタイミングで。」偉そうな話し方だ。それでも平野は誠…

【1月24日記者会見②】(ヂメンシノ事件73)

「報道各社の皆様。本日は急なご連絡にも関わらずご参集頂きまして誠にありがとうございます。」 一拍呼吸をおいた。声が震えないかだけ気をつけた。 「先程、弊社の代表取締役交代を発表させて頂きました。会長の奥平は取締役相談役となります。」 記者席か…

【1月24日記者会見①】(ヂメンシノ事件72)

会見が始まったのは午後6時半。 会見には自身と新社長の木村の2名のみで臨んだ。 巨大住宅メーカーのトップ交代としては異例の対応だろう。 殺風景な何もない会見場だ。 金屏風もない。退任する会長もいない。住宅業界の顔であるカリスマ奥平の退任なのに記…

【1月24日取締役会後②】(ヂメンシノ事件71)

「すまん。肝心なことを伝えるのを忘れていたな。奥平会長は代表取締役を辞任された。奥平会長は取締役相談役となり、次回の株主総会で取締役も退任となる。本日の取締役会で決まった。だから、先程の私の指示を実行しても、君が窮地に陥ることはない。心配…

【1月24日取締役会後①】(ヂメンシノ事件70)

取締役会終了後、奥平を別室に案内させていた。会長室に行かれると、メールを消されたり、大事な書類を処分される可能性すらある。会長室は入室禁止とし、私物は一切持ち出させないようにしなければならない。勝手に外部に連絡をされても困る。もちろん、事…

【1月24日取締役会⑨】(ヂメンシノ事件69)

「分かった。辞任する。」 「え。」 「平野社長。何度も言わせるな。辞任する。後は好きにせえ。」 「ありがとうございます。このような形になって申し訳ありません。会長の名誉は守りますから。」そう言って平野は深々と頭を下げた。10秒ほどは頭を下げてい…

【1月24日取締役会⑧】(ヂメンシノ事件68)

「知らんじゃないんですよ。こちらは証拠を握りました。最初は知らないふりをしようと思っていましたよ。会長は私を社長にして頂いた恩人ですからね。ひらのめぐみ。略して、ヒラメ。会長の腰巾着だからヒラメとまで言われながら会長をお支えしてきました。…

【1月24日取締役会⑦】(ヂメンシノ事件67)

「会長。辞任してくださいませんか。トップになって20年ですよ。もうご勇退しても良い時期じゃないですか。」 「言うに事欠いて、何を言うんや。恥さらしが。俺の退任理由はなんや。」 「キックバックですよ。」平野は短い言葉で返した。 「は。何のことや。…

【1月24日取締役会⑥】(ヂメンシノ事件66)

「会長。方向性は決まりました。」草薙の声が響く。そして言葉を続けた。 「どうですか。議長としてお話をさせて頂きますと、ご自身で辞任なさるのはいかがでしょう。会長、退き時ですよ。」 「は。何を言うてるんや。自分等、寝ぼけてるんとちゃうんか。平…

【1月24日取締役会⑤】(ヂメンシノ事件65)

「会長の代表取締役および会長兼CEOの解職を提案する。」ここまで一気に声を発した。取締役会の空気が一瞬にして変わった。 「まて、何を言っている。私の解職だと。」奥平が焦った声を出した。奥平が慌てた声を出したところを平野はほとんど聞いたことが無…

【1月24日取締役会④】(ヂメンシノ事件64)

会議室に入った。まず、常務の木村と目が合う。額が汗をかいているようだ。少し顔も赤いか。副社長の草薙は左の眉が上がったままだ。そして、奥平はこちらをみない。 無言の中、着席した。 「社長の退任議案につきましては否決されました。」 草薙が平野に説…