事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

帝國銀行、人事部122

帝國銀行は12月26日の暮れが差し迫ったタイミングでプレスリリースを発表した。 元行員による不祥事件について 帝國銀行 頭取 西山善史 この度、当行におきまして下記の不祥事件が発生いたしました。 社会的・公共的な役割を担い、高い信用と倫理観を求めら…

帝國銀行、人事部121

「二人きりで面談しているのは、どうしても私が知りたいことがあったから無理にお願いしたんです。教えて下さい。なぜ旧Yの皆を裏切ったんですか」 獣の唸り声のようなものが、伊東という人間の形をしたモノから発せられた。最初は少し高くかすれた泣き声の…

帝國銀行、人事部120

「お前、なにやってんだ」 「私も暇じゃないんですよ。でも、クビをかけて人事部長とコンプライアンス部長に直談判して、今回の一連の調査を認められました。伊東さんの横領事件裁判で、私の記録が証拠として認められるかは分かりません。そもそも、銀行とし…

帝國銀行、人事部119

「11月23日11時23分通話スタート。植北さん。仕事中に電話してきたら困りますよ。例の件、総務部内の協議は終わりました。だいぶ早いクリスマスプレゼントです。」 伊東の身体から立ち上る空気が変わったのが田嶋には分かった。 「11月26日16時13分通話スタ…

帝國銀行、人事部118

静かな会議室に伊東の笑い声が最初は小さく、徐々に大きく響いた。 「俺のスマホの画面が監視カメラに写っているだと。映像として撮られている可能性はあるだろう。それは否定しない。しかし、メールやLINEの文面が見えているとは思えない。証拠があるなら出…

帝國銀行、人事部117

「伊東さん。どうしても正直にはお話下さらないのですね」やっと言葉を紡いだ。自分ながら心が弱い人間だということが実感される。 「クソが。お前と話をする時間がもったいない。俺は何一つ責められる要素はない」伊東は興奮し、唇の左端からよだれが垂れて…

帝國銀行、人事部116

伊東の濃いグレーのジャケットの胸元が細かく震えている。興奮しているのだろう。そして、田嶋が手を置く机から急激な振動を感じた。一瞬、地震が起きたのかと思ったが、伊東の上半身が揺れているところを見ると、伊東は貧乏ゆすりをしているらしかった。貧…

帝國銀行、人事部115

田嶋の剣幕に驚きつつ、伊東が座る。伊東でもおとなしく人の言うことを聞くことがあるのだと、田嶋はふと思った。 「私が、何の証拠も無く伊東さんを告発すると思いますか。なぜ二人だけで話をしていると思いますか」 田嶋は涙らしきものが自分に込み上げて…

帝國銀行、人事部114

田嶋が黙っていると伊東の肩ががくがくと動き出した。最初は泣き声のようにも聞こえるほど小さかった笑い声が徐々に大きなものに変わっていく。それと共に伊東の身体が大きくなったように感じる。伊東が当初のショックから立ち直り、自信を取り戻しつつある…

帝國銀行、人事部113

伊東が少し力の戻った目で田嶋を見返してきた。 「君は勘違いをしているんじゃないか。私がスマートフォンでやり取りをしているのは、親の介護などで問題があるからだ。それは君にも言っていただろう。メールの内容なら君らに開示しても良いぞ。何ら問題ない…

帝國銀行、人事部112

伊東に対して田嶋が問い詰める。 「伊東さん。私はあなたが悪い人だとは思っていません。経営統合の実務担当としてご活躍されただけでなく、人事部でも当行全体のことを考え、様々な施策をされていたことを間近で見てきました。感情を表さない伊東さんには冷…

帝國銀行、人事部111

ここでとんかつが運ばれてきた。 とんかつの断面は黄色い衣となっている。きれいな色だ。衣をつけるとき溶き卵を二度付けしているから、このような色になるそうだ。このおかげで肉が柔らかくなり、ほんのりと卵の甘みも加わる。丸八とんかつ店の特別なとんか…

帝國銀行、人事部110

お店ではカウンターに3名で並んで座った。もう少しメンバーの数が多い時は、二階の座敷に行くが、今日はカウンターで十分だ。 田嶋が一番奥に座り、真ん中にムードメーカーの浅川、入口近くに梶が座った。瓶ビールを二本頼み、田嶋と梶がヒレカツ定食、浅川…

帝國銀行、人事部109

19時25分に田嶋は大井町駅に到着した。歩いてすぐなので間に合う時間だ。 少し前の方に見たことのある後ろ姿があり、浅川がいそいそと店に向かっていた。同じ電話に乗っていたようだ。少し早足で浅川を追いかけるが、浅川も急いで歩いている。結局、お店の前…

帝國銀行、人事部108

10月上旬、田嶋は久しぶりに山手線外の会を同期と開催することにしていた。 場所JR京浜東北線の大井町。遅れてくるメンバーもいたが、最初はとんかつを食べようと決めていた。 丸八とんかつ店本店は昭和30年に創業にしており、現在65年が経過している。 大井…

帝國銀行、人事部107

噂が広がった理由は、伊東が人事部の副部長として残留することが見えてきたからだ。執行役員を目指すのであれば、間違いなく人事部から出て、本部か大規模支店の長に就任するはずだ。ところが、伊東が異動しないようなのだ。伊東クラスの移動は、人事部長と…

帝國銀行、人事部106

旧Y店舗からの大量異動発令直後から、急激に人事部への問い合わせが、本人もしくはその上司から増えた。ほとんどは、慣れた事務職への再配置願い、退職の相談、パワハラの相談だ。人事部では田嶋も含めて手分けをして個々の相談に対応した。しかし、退職を希…

帝國銀行、人事部105

田嶋の脳裏に、いつかのエレベーターホールでの出来事がよみがえった。あの時も違和感を感じたが、今回は違和感というよりは、何かのアラームが頭の中でなっているようだった。 人事部の副部長に、銀行のOBで不動産会社の専務が頭を下げるなど、どう考えても…

帝國銀行、人事部104

「皆様が大事になさってきた愛甲石田支店は、商業施設として生まれ変わります。銀行の金庫は非常にめずらしい設備です。我々は、金庫を売りにした施設にしたいと考えており、既にテナントとしてのレストラン運営会社も内定しています。一日一組限定で、日本…

帝國銀行、人事部103

田嶋が伊東に対して、改めて疑問持ったのは、伊勢原市の愛甲石田支店の営業最終日に立ち会った時だ。愛甲石田支店は、元々近くに母店があることもあり、他の店舗よりも早めに店舗閉鎖を決定し顧客に案内していた。売却の入札も早々に終わっており、購入者は…

帝國銀行、人事部102

ある日、田嶋が再就職支援会社と打ち合わせを終え、応接室から出てエレベーターホールへ送っていく途中で、伊東がとなりの応接室から誰かと出てくるのが見えた。伊東と目が合うと、若干ではあるが嫌そうな表情をしていた。伊東と付き合いの長い田嶋だからこ…

帝國銀行、人事部101

ただ、田嶋の下には違う情報が入ってきてもいた。各店舗からは、人事部が来ているはずなの支店長や所属員との面談を行わなかったという噂話が入るようになった。徐々に神奈川県の旧Y店舗では、何のために人事部が同行しているのか分からないと言われるように…

帝國銀行、人事部100

この指針を見れば分かるように、銀行は積極的に外部へ店舗の空きスペースを賃貸できない。修繕も必要最低限としなければならず、その店舗で行われている銀行業務に比して過大ではない賃貸の規模とされてる。これでは、店舗を閉鎖した後に、空きスペースを大…

帝國銀行、人事部99

旧Yの神奈川における閉鎖店舗は、基本的には売却することになった。主に親密な不動産会社に声をかけ入札していくことになる。 銀行の店舗は好立地の場所に存在していることが多く、不動産としての価値は高い。よって、銀行は業績が厳しければ、店舗を不動産…

帝國銀行、人事部98

銀行の営業には様々な厳しさがある。特に個人業務に携わると「数字が人格」と言われかねない。今は支店長や管理職も若干おとなしくなったが、 少し前まではパワハラが横行していた。目標という名のノルマを達成していなければ、人間として扱われないような職…

帝國銀行、人事部97

帝國銀行では店舗と人員のリストラ計画がスタートしていた。決算発表明けの5月発令、6月着任で多くの人事異動が発表された。神奈川県の店舗では約3,500名の行員のうち、約2,000名に発令が出た。ほとんどのリストラ対象店舗は、翌年の3月末までに閉店すること…

帝國銀行、人事部96

この再発防止策は不正防止のためのものだったが、実際には別の目的も入っていた。田嶋もまさかとは思ったのだが、経営陣の一部はこの事件を上手く使うことを考え付いた。すなわち、お客様に対する集金業務の廃止だ。集金業務は現場の負荷が大きい。集金は、…

帝國銀行、人事部95

2週間後、捜査が一段落したタイミングで、帝國銀行は再発防止策と共に内部の処分を発表した。 処分は人事部の当初案のままだった。田嶋が心配した人事部の責任は不問に付された。 再発防止策は以下の通りだった。 (1)類似事案の発生防止の観点から、原則…

帝國銀行、人事部94

その矢先、横山が逮捕されたとのニュースが飛び込んできた。横山は潜伏先の香港で現地警察に発見された。マスコミは報じたが、規模は小さかった。結局、横山が横領した理由は、為替の先物取引での損失補填だった。横山は支店ではエースと呼ばれていたが、あ…

帝國銀行、人事部93

銀行は信用で成り立っている。 銀行の金庫には預金者全員が一気に預金を引き出せるほどの現金は眠っていない。預金者の預けた現金は、銀行が融資や有価証券で運用している。その資金はすぐには銀行に返って来ないのだ。 預金者は、銀行に預けておいてもいつ…