事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

帝國銀行、人事部9

田嶋はイライラしながら、外見は神妙に首を縦に振る。しかし、山階は田嶋を見ていない。自分の世界に没頭しているようだ。 「残業代がつかない理由は、管理監督者は、自己の勤務において裁量の余地が大きいことから、労働基準法の適用を除外しても保護に欠け…

帝國銀行、人事部8

「田嶋さん。あなたは管理監督者がどのようなものか勉強しているのですか」 田嶋の目の前で、渋谷支店外為課の山階が怒気をはらんだ顔で話を続けている。 山階は外為課の主任調査役だ。入行して25年超のベテラン行員であり、半年前に渋谷支店に異動してきた…

帝國銀行、人事部7

田嶋のフルネームは田嶋貴男だ。タジマタカオ。人気のあった渋谷系バンドであるオリジナルラブのボーカルと漢字は一文字違い、読み方は一緒だ。一時期、オリジナルラブから派生して、あだ名を『ラブ』もしくは『ラブっち』と呼ばれていたことがある。田嶋は…

帝國銀行、人事部6

人事部に戻るとすぐに直属の上司である副部長の伊東に今回の面談の報告を行う。一通りの内容を聞いた後に伊東が口を開いた。 「田嶋さん、甘いですね。その木村という行員、総合職でしょう? 別に遠隔地に飛ばしても良いですよ。女性総合職に甘い顔をしてい…

帝國銀行、人事部5

木村が会議室から出ていくのを見守る。その後ろ姿に最後に声をかけた。 「私は、銀行は人が全てだと思っています。これからもご意見を気軽にください」 木村に聞こえたかは分からない。扉が閉まった瞬間に、パイプ椅子に座り直す。 『疲れた』田嶋の率直な感…

帝國銀行、人事部4

「ありがとうございました」かぼそい声で木村が頭を下げた。顔を上げた時には、瞳に少し光が感じられた。 「田嶋さんのように法律にまで言及して説明してくださった方はいませんでした。さすが人事のプロなんですね」 ここからがだめ押しだ。田嶋は優しい口…

帝國銀行、人事部3

木村の白い顔は、今や全体が赤く紅潮していた。左目からも涙が溢れてきた。それでも田嶋は話し続ける。 「ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件という判例があります。これは飲み会においてパワハラを認定した事件ですが、上司が極めてアルコール…